第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
ベルフェゴールが扉を開けて部屋に入ると、そこにいたヴァリアー隊員はビクリと竦み上がり深々と礼をしてそそくさと彼の横を通り過ぎて退散していった。パタン、と閉まる扉を見届けて、ベルフェゴールは振り返る。
「いらっしゃい、ベル」
ベッドに入って座っている氷雨が笑顔で彼を出迎えた。
イタリア戦線の後、ヴァリアーは自身の本部に戻り事後処理に追われる羽目になった。今も多くの隊員たちは、欧州をも飛び出してあちこちの残党狩りに駆り出されている。
ベルフェゴールは、ベッドの横まで近寄ると手近な椅子を引き寄せて座った。
「調子良さそうじゃん」
「うん、正直ベッドから出たいくらいだよ。足も問題ないし……」
真っ白な布団の下で、氷雨の左足は曲げては伸ばしてを幾度か繰り返す。
ルッスーリアの匣兵器・晴クジャクのおかげで彼女がイタリア戦線で負った傷はすっかり癒えていた。本来ならば、彼女も戦後処理に駆り出されるはずだが、骨折という大怪我とルッスーリアの欲目が合わさって氷雨は数日の療養を命じられることになってしまった。その原因の一端が、怪我人である氷雨を担ぎ上げて派手な戦闘に興じたベルフェゴールにあることは言うまでもない。
ベルフェゴールの視線が、彼女の肩に注がれる。
「肩は?」
「肩も綺麗に治ったよ。見て確かめる?」
「見る」
二つ返事でベルフェゴールが頷くものだから、氷雨は思わずぱちくりと瞬きをした。冗談のつもりだったのだが、あまりにも真っ直ぐな視線を注がれてしまい、今更冗談だとは言い出せない雰囲気。どころか、冗談だと言えば無理やり脱がされそうな気さえする。
氷雨は、覚悟を決めてブラウスのボタンをいくつか外すと右肩を露出させた。自分で言い出したことながら恥ずかしくてとても視線は合わせられない。
ベルフェゴールの手が彼女の肩に触れる。真っ赤な血も傷痕もない。怪我自体がなかったのではと錯覚しそうになるような、キレイな白い肌だった。
「……ん、ホントだ。サンキュ」
肌を撫でていた手が、そのままブラウスの襟を掴んで氷雨の胸元に引き寄せる。羞恥にばかり苛まれていた彼女は、ここに至ってようやく気付いた。普段よりももっと真っ直ぐな視線と不釣り合いな静かな声音に。