第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
XANXUSの次に、少年が力量を測りかねていたのは氷雨だった。過去2回のクーデターを企てたヴァリアーに対し、ボンゴレ本部が送り込んだ監視役。その肩書きだけでもヴァリアー内では異分子そのものだが、そのうえ、最もマトモじゃないセンパイと恋仲で、しかも当の本人は最もマトモそうに見えるときた。一周まわって違和感しかない氷雨に、フランが興味を持つのは当然でもあった。
「ちゃんと戦えたんですねー」
「……えっと、ありがとう?」
「いや、おまえ褒められてねーから」
「あ、やっぱり?結果的には負けだもんね」
「それでもベルセンパイよりは、いい勝負になってましたよー」
「黙れクソガエル」
ドス、とナイフがカエルの被りものに突き刺さった。躊躇のない悪態がなによりもフランの言葉に対して肯定の意を示していることを、ベルフェゴールは知らない。
氷雨センパイは強くない。フランは確かにそう思った。それは身のこなしだとか銃捌きだとか、そういう殺しの技術に対する評価だ。彼女よりも暗殺術に長けた人間を、少年は何人も知っている。
けれど、氷雨センパイは、とてもおそろしい殺し屋<ヒットマン>だ。
いま、困ったように笑ってベルフェゴールを宥めている彼女を見て、フランはそう思っていた。彼女の違和感の正体をようやく垣間見た気がする。
ーー結局、この組織にマトモな人間なんて一人もいなかったわけですか。
当然といえば当然の答えに帰結して、フランは小さく息を吐き出した。
「さて、くだらない話はこれくらいにして城に戻らないとー」
「勝手に仕切んな」
「ボスはともかくとして、他の人達の安否は気になるね。幹部とボスが揃えば勝てない相手ではないと思うけど……」
「勝手に話を進めんな!!」
「……なんかセンパイいつにも増して機嫌悪いですねー」
「そうね……やっぱりラジエルさんが生きてたのショックだった?」
「ちっげーよ!オレはただ……、っ」
フランと氷雨の不思議そうな眼差しがベルフェゴールに注がれている。ああ、ちくしょう。ベルフェゴールは心中で悪態を零しながら押し黙った。死ぬほどダサくて情けないから、とてもじゃないがこの胸の内は明かせない。特に、フランの前では。