第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
「っ、借りばっかり、貯まってくね」
「そりゃオレがお前に助けられる事なんか早々ないしね」
「そうなんだよねー……ベルが苦戦する相手を私がどうにか出来る訳がない……」
「わかってんじゃん」
「!?い゛っ」
びくっと氷雨の体が跳ね上がった。ベルフェゴールの手が折れた左足を掴んだからだ。神経を直接刺激するような痛みを受けて目元に涙を浮かべながら、彼女はベルフェゴールを恨めしげに見上げる。三日月型に歪んだ口元は、とても楽しそうだった。
「うしし、イイ顔」
「痛っ……ほんと、趣味悪いなあ…」
「イヤならこんな怪我しなけりゃいーんだよ」
「簡単に言う……」
「センパーイ、持ってきましたー」
戻ってきたフランの腕には、敵の落とした武器がいくつか抱えられていた。
ベルフェゴールは、氷雨の足から手を離す。
「この辺りの木はみんな燃えちゃってたんで苦労しましたよー」
「周囲の様子は?」
「今のところ敵の気配はないですねー」
「そ。つっても、見つかんのは時間の問題だろーな」
ベルフェゴールは、炎を纏わせたナイフでフランが持ってきた武器の柄を切断すると、氷雨の左足に添えて、コートの切れ端で結び固定する。世辞にも丁寧と言える手付きではなかったが、手先の器用さは生来のものなのだろう。あっという間に応急処置が済んでいく。
その光景を、フランはぼんやりと眺めていた。
「迷惑かけてごめんね、フランくん」
唐突に掛けられた声に気を引かれてフランが視線を上げると、氷雨が彼を見上げていた。申し訳なさそうに細い眉が八の字になっている。
「そうですねー、なんか全部ミーのせいにされてますし」
「事実だろーが」
「もうベル!ご、ごめんね」
「……まあいいですけどー。ついでに氷雨センパイのバトルも見られてラッキーでしたし」
へ?と間の抜けた声を上げて目を丸くする氷雨を、フランは相変わらずの冷めた瞳で眺めている。