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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 体中の痛みが、まだ彼女を現実に引き止めていた。何処かの児童文学みたいに天使に導かれて天国に向かうなどという最期は期待していなかったが、抱き上げられた瞬間の浮遊感は案外その感覚に近いのではないだろうかと呑気に考える。ねえ、どう思う?と言いたくて、けれど大きな手が口元を覆って離してくれないので彼女は声を出す事すら出来なかった。
 太腿を抱えてくれている男の手は、少し震えているように思えた。

 ラジエルとオルゲルトが飛び去って間もなく、その場に転がっていた3つの死体は空気に溶けるように消えていく。
 フランは、枯葉の中から顔を出すとカエルの被り物についた葉っぱを払いながらキョロキョロと辺りを見回した。


「センパイ方ー、敵さん行ったみたいですよー」


 フランは、離れた場所で息を潜めている2人に声を掛けた。
 氷雨を抱きかかえていたベルフェゴールは、その報告を聞いてようやく肩の力を抜くと彼女の口元を覆っていた手を退ける。視線を落とすと、闇夜を彷彿とさせる眼差しと視線が交わった。
 へらりと、彼女は力なく笑う。


「また助けられちゃった」

「……今回は貸しイチじゃ足んねーよ」

「あは、ほんと……そうだね」


 軽口を叩いているものの氷雨の呼吸は荒い。
 ベルフェゴールは、傷ついた女の体を木の根元に座らせるように下ろすと肩の傷口と骨折した左足を一瞥して立ち上がった。


「フラン!なんか添え木になるモン持ってこい」

「えー、ミーがですかー?」

「元はと言えば、てめーが匣兵器を開けなかった所為だろが。さっさと行け」

「ちぇっ、せっかく氷雨センパイまで助けてやったのによー」

「 行 け 」

「ハーイ」


 フランは、ぱたぱたと森の中へ走っていく。
 その背を見送り、ベルフェゴールはナイフを取り出すと、自分のコートの裾をビリビリと切り裂き始めた。短冊状の布切れと化したそれで、氷雨の肩の傷を止血する。痛みからか彼女の表情は歪み、びくりと小さな体が跳ねた。裂けたコートの隙間から覗く真っ赤な血が、ベルフェゴールにはひどく綺麗に見える。
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