第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
「私は、ヴァリアーで生きていく道を自分で選んだ!選ばれるとか選ばれないとか、そんなこと関係ない。誰にも望まれなくても、私は私が決めた生き方を貫くだけよ」
幹部用のリングを与えられなかったことで、ヴァリアーに所属することを諦めてしまえる程度の覚悟なら、氷雨はボンゴレの小間使いになんてならなかっただろう。わざわざXANXUSに啖呵を切ってまで、ヴァリアーに戻ろうとはしなかっただろう。
この生き方を決めたのは、自分自身だ。彼女にとっては、それが揺るぎない誇りだった。
ーーそれに、実際は誰にも望まれなかったというわけでもない。氷雨がヴァリアーにいる事を望んでくれた人は、確かに存在している。それを彼女は知っていた。
「ここで死んでも後悔なんてない。私自身が選んだ結果だから」
「ハッ、そーかよ。……オルゲルト」
「はい」
「このバカな女を潰せ。原型も残らねーくらいにな」
「仰せのままに」
オルゲルトは恭しく礼をすると、匣兵器・巨雨象を開匣する。巨大な象の影が氷雨を覆った。
木の幹に寄り掛かって立っているのがやっとの状態である彼女には、その広範囲攻撃を回避する術はない。これから殺されるというのに、彼女の黒い瞳は未だラジエルを見据えて離れない。
巨雨象は大きく前足を振り上げ、勢いをつけて振り下ろすのと同時に急降下した。大地の鉄槌の名に相応しい衝撃が、氷雨が体を預けていた木の太い幹を襲い、ボキッと鈍い音を立てて木は真っ二つに折れる。その勢いのまま、振り下ろされた前足は氷雨を踏み潰し、地面を陥没させた。
匣兵器・巨雨象が足を退けると、そこには全身の骨を砕かれた氷雨の死体が、出来の悪い人形のように転がっていた。
ラジエルは、それを見て笑い声を上げる。
「あ゛っあ゛っあ゛〜〜っ!ケッサクだな、三文小説の主人公みてーなこと言ってっから、こーなるんだよ!!」
それに対する返答は、もう聞こえることはない。ラジエルは、最期にキレイゴトばかり並べて死に急いだ女の死体から興味を無くすと、オルゲルトを伴ってヴァリアーの拠点となっている古城を目指す。
白蘭様に、6弔花として選ばれた自分が負けるはずがない。彼は、確かにそう確信していた。