第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
「やる気満々で結構なこったが……残念ながら、タイムアップだ」
ラジエルがそう言うや否や、巨大な影が氷雨を覆った。反射的に飛び退いて降ってきたそれを避ける。対応がもう少し遅ければ、きっとぺしゃんこになっていただろう。
巨大な雨象の向こうに、リングに炎を灯したオルゲルトが立っていた。
氷雨は、焦ったような仕草で眉を寄せる。捕縛用匣兵器が長時間保たないことは想定していたが、相手の目付役がこれほどの実力を持っているとは彼女も予想できていなかった。
「大変失礼致しました、ジル様」
「まったくだ。次同じようなことがあればブッ殺すぜ」
「はっ、肝に銘じておきます」
オルゲルトは、再びラジエルの傍らへと控える。その隣には匣兵器・巨雨象の姿があり、ラジエルの周囲は匣兵器・嵐コウモリが取り巻いている。彼らに隙はない。
表情を固くした氷雨は、銃を構えたまま動き出せずにいた。
「しっしっ、急に大人しいじゃねーか。さっきまでの勢いはどーしたよ」
ラジエルの口振りは、わざとらしいことこの上なかった。氷雨が動き出せない理由を、彼は理解している。
うまく誤魔化したつもりだっただろうが、氷雨が最初にオルゲルトを捕縛したときから、ラジエルは気が付いていた。この女に2対1の状況での勝ち筋はない。嵐コウモリを封じられたのは想定外だったが、オルゲルトが復帰した今、こちらの勝利は揺るがないだろう。
ーーもしも、最初からベルフェゴールと氷雨が共闘していたら、もっとイイ勝負になったのかもしれねーな。
しかし、それは意味を成さない仮定の話だ。勝つべき者が勝つ。この世界はそういう風に出来ている。