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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 捕縛用匣兵器・雲の立方体<クーボ・ディ・ヌーヴォラ>は、雲属性の特性である絶対遮断力をもって敵を捕縛するーー裏を返せば、その内側には死ぬ気の炎ですら侵食できない、という事だ。それを防壁代わりに使用する策は、彼女の想定よりも上手くいった。
 氷雨は銃を構えて発砲する。ラジエルがそれを間一髪で避ける間に、彼女は再び彼と間合いを詰めるべく地面を蹴った。


「チッ!せっかちな女は煙たがられるぜ、おねーさん」

「ご忠告痛み入ります」


 ラジエルが空中へ飛翔する。氷雨は雲スズメ蜂を銃に装填すると、標的に向けて撃ち込んだ。遮蔽物はない。今度は簡単に避けることは出来ないだろう。また匣兵器で防御するようであれば、その際に必ず隙が生じる。
 男が防御に走るであろうと想定して、彼女は次の一手に備える。
 しかし、彼は防御行動を取らなかった。複数の蜂の銃弾がラジエルに届こうかと思えた瞬間に、口角を上げてニヤリと笑う。


「……っ、な!?」


 嵐属性の赤い炎が、雲スズメ蜂を貫いて破裂させる。氷雨は目を見張った。
 嵐コウモリは、元々遠距離攻撃を主に作製された匣兵器である。個々のコウモリ自体に殺傷能力はないはずだ。
 彼女が躊躇したその一瞬を逃さず、ラジエルの炎が真っ直ぐに彼女に向かって放たれる。躱しきれなかった炎が、氷雨の肩を裂いて紅い血を舞わせた。
 氷雨は後退して、肩についた傷口に触れる。それは見慣れた切り傷で、見慣れすぎた傷だからこそ、彼女は自制しきれなかった。今まで感情を排していた瞳が、はじめて困惑に揺れる。


「……へえ。そーゆー顔も出来んじゃねーか」


 ニイと笑ったラジエルは、からかうような口振りで言った。その手には独特の形状をしたナイフが握られている。


「しししっ、驚いたろ?オレもナイフ投げは得意なんだよ。さんざ投げまくったからな」

「いつの間に……」

「ベルの死体には近づいてないのに、か?ご丁寧に地面に落ちてたぜ。理由は知らねーけど」


 先程地面すれすれで回避した時か、と氷雨は納得した。幸い傷は深くない。戦うのに支障は少ないだろう。彼女は再び銃を構える。
 ラジエルは、くるくると手元でナイフを回して遊びながら口角を上げて笑みを深めた。

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