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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 ラジエルは、クソッと悪態を吐いた。オルゲルトも捕らえられた状態では開匣を妨害する術はない。嵐コウモリの炎は、いまだ女には届いていなかった。


「いいこと、教えてあげましょうか」

「は……?」


 氷雨は、匣兵器・雲スズメ蜂を開匣した。彼女の炎を纏った蜂たちは、瞬時に標的を見極めて八方に飛散する。寸分違わぬ正確さをもって、周囲に展開していた嵐コウモリを捉え撃ち落とした。
 ラジエルの顔がピクリと引き攣る。


「あなたの嵐コウモリは、私の匣兵器と相性最悪なんです」


 氷雨の構える銃から、銃弾が放たれた。真っ直ぐに向かってくるそれらを何とか避けて、ラジエルは彼女と距離を取るために上空へと飛翔する。
 それを追いかけるように、氷雨は一度木の枝に飛び上がり、そこから再び跳躍した。


「バカが、いくらなんでもこの距離は飛べねーだろ!」

「ええ、そうですね…っ」


 トン、と何もない空間を足場にして氷雨は再び跳躍した。ラジエルとの距離が詰まる。彼女は、銃を構えた。
 ーーこの距離で撃たれれば避けきれない。
 ラジエルは、想定を上回る彼女の攻勢に困惑を隠しきれなかったが、戦況を瞬時に判断すると一度倒され己の手元に戻った匣兵器・嵐コウモリを開匣した。コウモリ達がラジエルの前に壁となって群がる。


「……っ、この」


 氷雨が引き鉄を引くと、銃口から放たれた雲スズメ蜂が無数の銃弾となってコウモリ達を撃ち抜いた。しかし、彼らに邪魔をされた所為で銃弾の軌道は僅かに標的から逸れる。
 ラジエルは、椅子を浮遊させている炎を一時的に消す事で重力に従った急落下を利用し、退避した。すぐに炎を再び噴射させたものの落下の勢いに耐え切れず、椅子の足がガガガッと耳障りな音を立てて地面を削る。


「っ、アンタがここまでやるとは思ってなかったぜ」

「ご期待に添えず、すみません」

「狸女が。コウモリの攻撃を防いだのは、雲属性の炎だな」

「……嵐コウモリの特性は知っていましたので」


 氷雨が黒いコートをめくると、その細い腰には銀のチェーンで匣兵器が幾つも繋がれていた。

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