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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 雲属性の炎を纏った銃弾がラジエルに迫る。
 彼は、口元に浮かべた笑みを崩さないままそれを避けた。余裕綽々といった様子だ。


「アンタは、もう少し賢い女だと思ってたんだけどな」

「ご期待に添えず、すみません」


 すべての銃弾を避けられても、氷雨は表情を変えなかった。慣れた手つきで空になったカートリッジを入れ換える。
 空中に鎮座するラジエルの傍らに、執事オルゲルトが戻る。


「ジル様、この無作法者は私めが」

「ししっ、だとよ。どーする、おねーさん。2対1でも勝機はあんのか?」

「負ける気で戦う人間がいると思います?」


 ニコリ、と貼り付けたような笑顔を氷雨は浮かべた。その右手に拳銃を構え直す。
 劣勢を認めない彼女に、ラジエルは心中で失望した。時勢を理解できない人間ほど愚かなものはない。
 あのオープンテラスで対峙した女性は、ボンゴレに固執はしていたものの馬鹿ではなかった。ボンゴレが勝利する為の画策を練ろうとしていたし、ラジエルに何の情報も与えずに立ち去った話術は目を見張るものがあった。それがこの体たらく。心底がっかりだ。
 ラジエルは、己の匣兵器・嵐コウモリに指示を出し氷雨を包囲させる。ベルフェゴールの死に際に立ち会わせる計画は成功した。敵対するのであれば、もうこの女に利用価値はない。


「勘違いすんな……アンタはもう負けてんだよ!!」


 パチン、とラジエルが指を鳴らした瞬間に周囲の嵐コウモリは一斉に嵐属性の炎を放出した。その炎を浴びて、女は先に死んだ男達と同じように血を噴き出し倒れて死ぬ。

 ーー死ぬ、はずだった。

 氷雨は、変わらずにその場に立って微笑を浮かべている。


「!?何を……」

「ジル様、お下がりを!ここは私が、」

「あなたは邪魔です」

「ぐっ!?」


 ラジエルを守るため、彼の前に飛び出そうとしたオルゲルトは何かに額を強打してフラついた。一歩、右足を後ろに退くと空中のはずなのに足が着いた。いつのまにかFシューズの炎が消えている。


「これは、捕縛用匣兵器……!」

「当たりですが、遅い」


 一切の感情を排除したような冷たい声音が響く。氷雨の右手中指には紫色の炎が上がっていた。左手には、匣兵器。
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