第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
ラジエルは、倒れたベルフェゴールを見下ろしながら堪え切れない様子で笑い声を零していた。
「しししっ、どーだベル、お前があの女に熱を上げてんのは知ってんだぜ。惚れた女の前でブザマに殺されんのはどんな気分だ?あぁ!?」
「あ゛、……く……っ」
「安心しろよ。てめーの女は、きちんと正統王子のオレが引き取ってやっからさ。ししししっ」
「……ジ、ル……っ!」
ベルフェゴールの手が土を掴む。しかし、起き上がる様子はなかった。
ラジエルはますます笑みを深めると「散れ」と告げる。その瞬間に、ベルフェゴールは全身から血を噴き出して倒れ伏し、それきりピクリとも動かなくなった。ラジエルの高笑いが辺りに響き渡る。
「ベル!フランくん!!」
氷雨は、ようやく初老の男の匣兵器を躱して二人のもとへ駆け寄った。しかし、倒れたその体に触れる前に思わず足を止めてしまう。
全身から血を吹き出して倒れたその有様は、近くで見れば見るほど下手なスプラッタ映画よりも余程凄惨な光景だった。
「だから言ったろ、ソイツは出来損ないだってよ」
「……私を誘い込んだのは、わざとですね」
「ああ、ベルがアンタに惚れてんのは分かってたからな」
「だからって何のために……」
「あ?そんなん決まってんだろ」
銃を持つ氷雨の手は微かに震えていた。動揺を露わにするな、冷静になれ、と頭の中で言い聞かせる。暗殺者としての彼女は、そうあらねばならぬと理解していた。
ラジエルは笑う。肘掛けを叩き、肩を震わせて、それが喜劇か何かのように笑っている。
「失敗作ちゃんに相応の、惨めったらしい最期を演出してやるためだ」
氷雨の手の震えが止まった。
ラジエルは、立ち尽くす女の姿を見下ろしてニイッと笑みを深める。
「アンタの信じる"最強"はこの程度なんだよ。このオレの足元にも及ばねー」
「ええ……そうですね」
「ししっ、よーやく理解できたか。なら、最後のチャンスだ。オレに……このジル様に降れ」
「ボンゴレを選んだ私を受け入れると?」
「正統王子は器がちげぇんだよ。アンタがオレに忠誠を誓うなら、少なくとも命は拾ってやるぜ。どーする?」