第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
幾らも時間が経たないうちに、ボンゴレ連合軍に対するミルフィオーレの攻勢は明らかに停滞し始めていた。押せば倒れると思われているボンゴレ連合軍を淘汰するよりも、彼らの指揮官を排除し人間離れした戦闘能力で快進撃を続ける独立暗殺部隊ヴァリアーへの一斉攻撃を優先することは、至極当然ではある。
氷雨は、片手に銃を携えて注意深く辺りを見る。彼女が休みなく戦わなくとも、残存するボンゴレ連合軍でほぼ手が足りる状況になっていた。
「あっちは大丈夫かな……」
余計な世話だと笑われそうだが、ヴァリアーとミルフィオーレでは天と地ほどの兵力差がある。いくらヴァリアーが能力的に優れた人間の集まりだろうと、数の差を埋めるのも限度があるだろう。
ぞくり。不意に、背筋に悪寒が走った。氷雨は慌てて辺りを見回す。しかし、周囲に目ぼしい敵の気配は感じられず首を傾げた。今のは一体と疑問に思った直後、耳元の無線機に通信が入る。スクアーロだ。
『氷雨!今すぐ動けるか』
「うん、こっちはだいぶ落ち着いたし大丈夫だけど」
『6弔花が出た。南でベルとフランが応戦中だぁ。行けるならフォローに入れ』
「わかった、すぐに向かうわ」
氷雨は、地を蹴って飛び出した。鬱蒼と生い茂る木々の間を縫って、全速力で走る。
『フランの話じゃ、ベルの兄が6弔花らしい』
「!?まさか」
『恐らく同一人物……お前が見れば答えは確実だろうがなぁ』
「それなりのポストなんだろうとは思ったけど…」
彼女は足こそ止めずにいたが、頭を殴られたような衝撃を受けていた。イタリア市街のど真ん中に、敵方の下っ端を値踏みする目的で6弔花級が出て来るとは。想定が足りなかったとしか言いようが無い。
そうだぁ、とスクアーロは唸るように言った。思わずびくりと氷雨の肩が跳ねる。
『それぐらい会った時に吐かせてきやがれ、役立たずがあああ!!』
「ごっ、ごめんなさいーー!!」
鼓膜が破れそうな大音量だ。しかし、今回ばかりは完全な失態なので、彼女も謝る他に道がなかった。
想定が甘かったことがひとつ。もうひとつはーーボンゴレとヴァリアーを馬鹿にされて感情的になったこと。しかし、これを言えば更なる怒りを買うのは目に見えている。彼女はこの事実を墓まで持っていこうと決意した。