第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
ーーボンゴレ連合軍最前線。
連合軍に混じって隊服の黒いコートを靡かせ戦う氷雨は、次々と現れるミルフィオーレ隊員を倒しながら、敵の攻勢が緩み始めたことを悟る。
頃合いとしては予定通り。彼女が無線の音量を下げてからまもなくして、無線機にノイズ音が入る。
『ゔお゛ぉおい!生きてんだろうなあ、氷雨!』
「はーい、なんとか」
『ししっ、そっちどう?楽しいカンジ?』
「特に楽しくはないかな…」
向かってくるミルフィオーレ隊員達に対して氷雨が引き鉄を引くと、装填されていた雲スズメ蜂が雨のように彼らへ降り注いだ。地面に倒れ伏す人数が増えていく。
『城は獲った。次の大物が出てくるまで、お前はそこで待機だ』
「了解です、隊長。こっちは任せて」
『怪我したら早めに連絡するのよ〜?』
「うん、ありがとう。ルッス」
この状況でも普段と変わらない会話をする彼らに、氷雨は安堵する。
氷雨、と聞き慣れた声に名を呼ばれ、彼女は雑念を振り払うと表情を引き締めた。
『この戦いの目的は、6弔花級の指揮官を討ち白蘭を引きずり出すことだぁ。だが、それだけじゃ勝ったことにならねえ』
「……わかってる。ボンゴレ連合軍が壊滅すれば、私たちの負けになる」
『そうだ、それだけ肝に銘じておけぇ』
「言われなくても」
そんな覚悟はとうの昔に決めている。
リングから発せられる紫炎が一瞬その大きさを増した。氷雨は、匣兵器を開匣する。彼女の死ぬ気の炎を纏って飛び出した蜂の群れは八方に飛び散り、迫り来るミルフィオーレ隊員達を撃ち落とした。
「私の知ってるボンゴレは最強だもの。負けるなんて許さない」
続けざまに氷雨の放った銃弾が、蜂の攻勢から逃れた者達を捉えて落とす。
たったひとりの援軍。果たして、彼女に傷ひとつ負わせることも叶わずに何人の同胞が逝ったのか。その場にまだ立っているミルフィオーレ隊員達は一様にたじろぐ。
黒いコートの袖に盾の紋章。それを肩に掛けた瞬間から、敗北は己の死と同義。だからこそ、覚悟の大きさが炎を灯す現在の戦いにおいて彼女らが遅れをとる道理はない。
壊滅したボンゴレの傍らにあって尚、ヴァリアーは最強の暗殺部隊として、その名を汚してはいなかった。