第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
ペタ、と氷雨の上気した頬に手のひらを押し当てる。酔っている所為か熱く感じた。閉じられた瞼の奥にある暗い闇夜のような瞳を思い返して、ベルフェゴールは眉を寄せる。
「ほんと、タチのわりー女」
ぽつり、と彼は呟いた。
大人になって物分かりが良くなった体を装って、それでもまだベルフェゴールは看過できなかった。その真っ黒な瞳が自分以外の誰かを映すことを。
もう彼女のすべては自分のものになったはずだ。なのに、いつまでも焦燥感が拭えない。いっそコイツが、自分以外の何もかもを捨ててくれたらーーそこまで考えて、ベルフェゴールはおかしくなって笑ってしまった。そんな女だったら、こっちから願い下げだ。
ベッドに上がり横になって、彼女の体を抱き寄せる。今日のところは、ベッドの中で一緒にいるってことで満足してやろう。
「オレも丸くなったよなー……」
誰かさんのせいで。
呑気な顔をして寝こける氷雨の額にキスをして、ベルフェゴールは目を閉じた。