第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
「別にいつも通りでいいんじゃね?どーせオレらが勝つわけだし」
「私も負けるとは思ってないよ。思ってないんだけど……」
「だけど?」
「うーーん………うまく言えない……」
なんだそれ、とベルフェゴールは呆れたように言った。
だが、彼女の中にはただ漠然とした不安感があるだけで、その正体も理由も、どうにも説明ができそうにない。氷雨は、ますます項垂れる。
沈黙。ベルフェゴールは彼女の手から空っぽのグラスを奪い取ると、それをワインで満たして押し付けた。
「飲め」
「う、うん……?」
「よーするに、余計なこと考えないようにするために飲みたかったんだろ。付き合ってやるよ」
「うん……ありがと」
中途半端な慰めも、理解した振りをした説法も、彼は言わない。それが氷雨にとっては救いだった。
受け取ったグラスから一口分のワインを喉に流し込んで、へらりと彼女は緩んだ笑顔を見せる。
それに応えるように、ベルフェゴールは口角を上げて笑う。ワインボトルが空に近づくにつれ、彼の笑みは深まるばかりだった。