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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 豪奢な家具が乱雑に並ぶベルフェゴールの部屋の中央には、彼が数年前に気に入って買ってきた真っ赤なソファがある。ベルフェゴールが真っ先にソファへと腰を下ろす中、氷雨は隅に追いやられていたカフェテーブルをソファの前に運んでくると、ワイングラスをセットした。ガーネット色の赤ワインでグラスを満たして、彼女はようやく男の隣に座る。


「はい、かんぱーい」

「カンパーイ」


 彼女の声に続けて互いのグラスを軽く合わせ、ベルフェゴールはグラスを満たすワインを口にした。
 ふわりと鼻腔をくすぐる香りは濃厚で、赤ワイン特有の複雑な味わいが舌先に残る。普段から嗜む程度しか酒を飲まない彼だが、このワインは美味しいと思った。王族の舌を満足させるくらいなのだから、良い品なんだろうと彼は思う。氷雨もいいワインだって言っていたし、きっとそうだ。うん。


「美味いね、コレ」

「そう?よかった、ふふっ」


 へらりと笑った氷雨のグラスからは、もう半分ほどのワインが消えていた。あきらかにペースが早い。
 ベルフェゴールは、グラスを口元に運ぶ合間に先程から気になっていたことを言葉にする。


「急に酒飲もうとか、どーしたの?」

「んー?なんとなく?」

「普段そんなに飲まねーやつがなんとなくで上物のワイン買ってくるかよ」

「そこ、そんなに追求しなくていいのになあ……」


 氷雨は、ベルフェゴールの視線から逃げるように目線を下に落とすと空っぽになったワイングラスに指を這わせて弄ぶ。
 滅多に買わない酒を買って、深夜に戦闘訓練を行って、普段はやらない何もかもをやってしまう理由なんて、今の状況と明日の作戦がヴァリアーに長く身を置く彼女にとっても"異質"であるからに他ならなかった。けれど、それをなんという言葉にしたら正しいのかが分からない。
 ベルフェゴールは、ワイングラスをテーブルに戻すと彼女の顔を覗き込んだ。


「もしかして、緊張してんの?」

「緊張っていうか……うーん、でもそうなのかな?こんな大規模作戦で前線に出るの久しぶりだし」


 この10年で、氷雨のヴァリアーでの立ち位置は激変している。ボンゴレとの交渉や匣兵器の研究を主に扱うことになった影響で、ミルフィオーレが台頭してくるまでは戦闘任務に駆り出されること自体も減っていた。
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