第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
氷雨は、レヴィの返答をとことん待つつもりで、じいっと彼を見つめる。そうすれば、やがて彼が居た堪れなくなって喋り出すことを彼女はわかっていた。
「俺は……」
「やーっと見つけたぜ!!」
「わっ!?」
ようやくレヴィが話し出すかと思ったその時に、氷雨は背中に衝撃を受ける。二本の腕に抱き寄せられて、彼女は背後の男ーーベルフェゴールの胸にすっぽりと収まった。あとちょっとだったのになあ、と残念に思いながら、氷雨は己を抱く彼の腕に手を添えて後ろを振り返る。
「なにか用事?ベル」
「そりゃこっちのセリフ。せっかくボンゴレから戻ってきたのに、オレより優先する用事があんの?」
あなたを最優先するつもりで戻ってきたわけではないんですけど……と、彼女は思っても言わなかった。そうねごめんなさい、と言葉だけで謝って、氷雨はレヴィに視線を戻す。
レヴィは、もういつもの調子の仏頂面に戻ってしまっていた。本当に残念だ。
「……私、戻るね。レヴィも訓練はほどほどにね」
「ああ」
レヴィは二人に背を向けると、別のトレーニングルームへと去っていった。
その背を見送って、ベルフェゴールは首を傾げる。
「なに?レヴィと浮気?しししっ」
「微塵も思ってないでしょ?」
「おまえとアイツじゃね。ないない」
「まあ自分でも相手にされないだろうな、って思うよ」
レヴィはボスが一番だから、と言う二人の声が重なった。それが正しい見解だ。
ベルフェゴールは、氷雨を抱き寄せていた腕を解いて頭の後ろで手を組みながら、来た道を引き返すべく踵を返した。氷雨も彼の後に続いて歩き出す。
「ねえ、ベル。一杯飲まない?いいワイン買ってきたの」
「酒?めっずらし……いーよ、オレの部屋でいいならね」
「じゃ、私の部屋寄ってから行こう」
氷雨の足取りが少し軽くなる。二人は、彼女の部屋でワインを調達し、ベルフェゴールの部屋へと向かった。