第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
<オペレーションを開始します>
トレーニングルームに、機械音声が響く。氷雨は、愛用の拳銃を構えた。
真っ白な部屋全体にノイズが入り、ぐにゃりと風景が歪んだかと思えば、そこはあっという間に夜の森になった。
<ロケーション:森林地帯>
<シミュレーション:対多数戦闘>
<エネミーレベル:S+>
<オプション:リング使用想定>
<開始まで あと15秒です>
風もないのにザワザワと木々が揺れる。氷雨は、注意深く辺りを見回しながら無機質なカウントダウンの声を聞いていた。
<戦闘を開始します>
その声が響いたと同時に、周囲の木々の隙間から一斉に人影が現れた。それらは色とりどりの炎と匣兵器を身に纏っている。
彼女は、素早く照準を合わせてトリガーを引く。1つ、2つ、3つと銃弾に当たった影は次々に消失していった。しかし、数は圧倒的に相手方が有利だ。氷雨が数体を倒す間に、他の影が迫ってくる。後方の木の枝へと飛び退いて、彼女は相手の匣兵器の突進攻撃を回避した。その間にも銃声は響き続けて、一発の漏れすらなく影を撃ち落としていく。
「………っ!」
回避と射撃を続けて影の数もあと僅かになった頃、氷雨の死角から青い炎を纏った影が飛び出してきた。喉元に迫った刃を寸でのところで避けると、彼女はその勢いのまま強烈な後ろ蹴りを影に食らわせる。よろめいた影に、銃弾を一発くれてやった。
まもなくして、影は一つ残らず消失した。ミッションコンプリート、の音声とともに夜の森はただの白い部屋に戻る。
「こんな時間に訓練か」
「レヴィ」
氷雨が銃の調整をしながらトレーニングルームを出ると、レヴィ・ア・タンと鉢合わせた。こんな時間、とは言うが彼や彼女からしてみれば、今くらいが仕事としては適当な時間帯である。
彼女は銃を懐にしまうと、目を細めておかしそうに笑った。
「レヴィこそ。こんな時間に訓練?」
「俺は日課だ」
「そっか。さすが、真面目だね」
相も変わらず仏頂面の同僚にくすりと笑みをこぼしながら、氷雨はいま出てきたトレーニングルームのコンピュータを操作する。全敵排除・ダメージ無し、と画面には申し分ない結果が表示されていた。
コンティニューの文字が、画面上でチカチカと光っている。