第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
それならオレは真逆だな、とベルフェゴールは思った。
好きだから触れたい。その未知の感覚を自覚したときから、自分はただただその欲求を満たしたくてたまらない。もう、ずっとそうだった。
「悪かったって。……あんまりかわいーこと言うから、動揺した」
「……ベルのバカ」
ーーその悪態聞くのも何度目だろーね。
けど、そう言いながらオレの服を掴む癖、直さねーとただのツンデレだぜ。オレは別にそのまんまでもいいけど。
今度は、きちんと言葉を呑み込んだ。
「キスしていい?」
「ダメって言ったらしないの?」
「いや、するけど」
「毎回選択肢ないんだよね、ほんと……」
氷雨は呆れたようにため息を吐きながらも、ベルフェゴールの肩口から顔を上げると、前髪の奥に隠れた彼の瞳と視線を合わせる。そして、蕾が綻ぶように微笑んだ。
たったそれだけで、彼は欲しかった何もかもを手に入れたような心地になる。ベルフェゴールは、彼女の額に、瞼に、頬に、鼻先にと順番に口付けを落とした。もったいぶって間を置いて、最後に唇へ口付ける。啄ばむように、何度も離れては触れた。
「氷雨……好きだ」
そう囁く声はとろけるように甘ったるくて。何十回、何百回と聞いてきて、もうやめてほしいと何度思ったか知れない、彼の気持ちを真っ直ぐに表現するその言葉が、いまの氷雨には心地よくて仕方がなかった。
だからもう、この心地良さを知る前には二度と戻れない。
また唇が重なる。彼女は、恋してしまった男に身を任せた。