第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで
「いい加減にしろおおおお!!!」
突如として響き渡る怒号。
氷雨は、びくりと竦み上がった。あまりにも静かなので、すっかり存在を忘れていた。この部屋の中には最初から、もう一人ーースクアーロがいたことを。
しかし、ベルフェゴールは動じる様子もなく舌打ちをする。
「うるせーな。いまイイトコなんだから黙ってろよ」
「黙ってられるかああ!ベタベタベタベタと目障りなんだ、他所でやれェ!!」
「おまえがヨソに行けば?」
「んだとぉ!?物理的に別れさすぞ、バカップルがァ!!」
「へー、やってみ」
ベルフェゴールは、氷雨の肩を横に押し退けて一歩前へ出る。スクアーロも構えの姿勢を取っていた。
彼女は、二人を止めようと口を開きかけるものの咄嗟に言葉が出てこなかった。間に入ろうものなら、確実に自分が一番最初に死ぬ。そんなことはよくわかっている。だからこそ、殺し合いが始まる前に止めなければ、それ以上の好機は巡ってこない。
数秒で頭をフル回転させて最善策を模索した結果ーー導き出された方策は、力技一択だった。氷雨の右手中指に嵌められたリングに紫色の炎が灯る。
「ベル、ごめん!」
氷雨は、左手で腰に付けたチェーンから匣兵器を一つ取り外し、すぐさま開匣した。
ベルフェゴールの両足がふわりと床から離れる。彼は尻餅をつくように後ろに倒れた。しかし、そのまま地面に落ちることはなく全身が空中に浮いた状態で静止する。クソッと悪態を吐いて、ベルフェゴールは己の四方を取り巻く透明な壁を殴りつけた。
想定通りの反応に、氷雨はこの後のことを考えると憂鬱でしかなかった。恐らくナイフは飛んでくるし、機嫌はまた急降下しているに違いない。
彼女が使用した『雲の立方体<クーボ・ディ・ヌーヴォラ>』は、雲属性の炎の絶対遮断力を利用した捕縛用匣兵器である。透明な立方体の壁は、通常の武器はおろか死ぬ気の炎すら遮断する代物だ。そう簡単には壊せない。
なおも文句の言葉を連ねているベルフェゴールを一旦スルーして、氷雨はスクアーロに向き直る。
「ごめんなさい、スクアーロ。会議には、出られるように努力するから」
「……ちっ。大舞台前にこれ以上戦力削るんじゃねえぞ」
「善処します……」