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THE WORST NURSERY TALE

第7章 【04-後編】零時の鐘が鳴るまで


 痴話喧嘩はじまったーーーー!!!
 ぎゃいぎゃいと両者一歩も引かずに棘のある言葉が飛び交う。
 当初は当事者であったはずのフランもこうなっては完全に蚊帳の外状態だった。感じの悪いセンパイを、いつもの仕返しも兼ねてちょっと揶揄ってやろうとしただけなのに、どうしてこうなった。彼は今後の対応のヒントを得るべく、先程から静かな銀髪の作戦隊長へと、ちらりと視線を向ける。
 端正な顔立ちの眉間には深い皺が寄り、今にも「うるせえ」と叫び出しそうな形相だった。ここで彼にまで叫び出されては、自分も一緒にお説教されてしまうに違いない。それは非常に面倒だ。
 フランは、未だ痴話喧嘩を続けている氷雨をベルフェゴールのほうへと突き飛ばした。


「えいっ」

「きゃっ」

「うおっ」


 カラン、と氷雨を抱きとめたときにベルフェゴールの手からナイフが落ちる。
 よしよし、上出来ですーとフランは心中でガッツポーズした。その隙に移動して、窓を開ける。


「ナイスキャッチ、センパイ」

「てめっ、待て!」

「ラブラブなお二人の邪魔をするのは申し訳ないのでー、あとはごゆっくり!ですー」


 フランはそのまま窓の外へと飛び去った。鮮やかな逃走だった。
 氷雨はポカンとしてその様子を眺め、ベルフェゴールは苦々しげに舌打ちをする。骨張った手が、彼女の顎を捕らえて窓の外へと向けられていた顔を自分のほうへと向けさせた。


「今の、おまえ受け身取れたろ」

「うっ……」


 さすがにバレたか。氷雨はバツの悪そうな表情になって視線を逸らす。さらに付け足すなら、突き飛ばされる前に身を翻すこともまあ出来なくはなかった。これは言わないけれども。
 ベルフェゴールの左腕が彼女の細い腰に回り、体を密着させるように抱き寄せる。


「ししっ、オレに抱きしめて貰いたかったの?かわいートコあんじゃん」

「そ、そんなんじゃ…」

「照れんなって。いま気分イイから、さっきの暴言は許してやるよ」


 顎を掴んでいたベルフェゴールの手が離れたかと思えば、僅かに赤く色付いた頬を撫でて首筋を指先でくすぐる。ぴく、と氷雨の肩が震えると彼はますます満足そうに口角を上げて、ペロリと己の唇を舐めた。その仕草があまりにも色っぽくて、彼女は息を呑む。男の指先が、唇をなぞった。
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