第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
どこにもいない。
ベルフェゴールは、アジトの廊下を歩きながら小さく舌打ちをした。でかい任務を終えた後は何故だか暇になることが多い。それは今回も例に漏れず、結果として暇を持て余した王子ことベルフェゴールは暇潰しの相手を求めてアジト内を探索しているのである。
しかし、今日はいつもの遊び相手がなかなか見つからないでいた。
「あ、オカマ。氷雨知らね?」
「氷雨ちゃんなら、いつものお客様の相手をしてるわよ~」
「げ、そういやもうそんな時期か……あのシスコン、タイミングわりー奴」
なんとも苦々しげにベルフェゴールは言葉を発した。
『いつものお客様』とは、コメータファミリーの跡取り息子・鈴川 黎人のことであった。コメータファミリーはボンゴレ傘下の中でも歴史が古く、ボンゴレの盟友と呼ぶに相応しい間柄である。現在は拠点が日本であるため、ボンゴレ本部にはあまり顔を出さないが、その影響力は依然として衰えていない。
「まあベルちゃんったら。本人の前でそれを言ったらダメよ!」
「顔も見たくねーから平気だよ。マジでうちをなんだと思ってんだろーな、ひょいひょい顔出しやがって」
「お姉さんの心配をしてるんじゃないの!かわいい子よね~」
ルッスーリアはサングラスの奥を光らせながら楽しそうに言った。まるで近所の子供を見て和んでいる主婦のような台詞である。
そう、鈴川 黎人は、鈴川 氷雨の実弟であった。黎人は一般人より少し姉に対する好意が強く人並みに心配性であることから、一ヶ月に一回程度の頻度でイタリアのヴァリアーアジトへ出向き、姉と面会を願い出る。そもそも、家族との交流というものが皆無に等しいヴァリアー内において、このような状況はまさに異例である。が、同盟ファミリーからの申し出となれば、さしものヴァリアーも断るわけにはいかずこうして面会を受け入れているのである。