第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
「……?あれ……」
しかし、残っているはずの二階の敵は姿を見せなかった。それどころか気配すら感じられない。
彼女が三階に視線を集中させたのは、ほんの十秒ほどのことであるにもかかわらず、二階の敵はすっかり姿を消していた。
「(逃げられたか、な?)」
そうであれば気づくはずだが、と思いながらも氷雨は周囲を注意深く見回し、近くで索敵に当たっている部下にも連絡を取った。が、ここ数分で豪邸から逃げ出した人間の目撃は一つもない。
誰かが到着してたのかな、と氷雨が首を傾げたところで二階の廊下に並ぶ扉のひとつを蹴破って、スクアーロが現れた。彼は辺りを見回すと、そこで足を止めた。
――ノイズ音が、ひびく。
『う゛お゛ぉい!二階の殲滅は完了だぁ!』
『うっせーよカス鮫。一階から下も終わったぜ。弱いのばっかでつまんねー』
『ウフフ、三階も完了よー』
次々と任務完了の報告が届く。氷雨は辺りに敵がいないことを改めて確認すると豪邸に向かって走り出した。目指すは二階の廊下である。銃撃戦の末に窓は粉々に破壊されていたため、侵入は容易い。
氷雨が廊下に降り立つと、スクアーロは歩み寄ってきた。
「どうした、氷雨。外の敵はやったのかぁ?」
「ばっちりだよ。でも、ちょっと気になることがあって……」
真っ赤な廊下に幾つもの人間が倒れている、凄惨な光景にもかかわらず氷雨は表情ひとつ変えることなく廊下を見渡す。先程まで彼女と撃ち合っていた三人は、全員そこに倒れていた。三人とも無数の切り傷を負っている。
「なんだ?」
「うーん……まあ、死んでるからいいのかな」
「訳わかんねぇぞぉ」
「とりあえず、逃がした敵はいないみたい。先に照合しよう」
「あぁ……そうだな」
隊員総出で始末した人間の身元を照合し、それを纏めたリストをスクアーロが依頼主のもとへ届けに行った。
その後、依頼主は豪邸ごとすべてを燃やしてしまったようだが、それはもう彼らの関知するところではない。