第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
ーーそういうとこ、似てるなあ。
あながち、死んだはずの兄というのも嘘ではないのかもしれないと彼女は今日初めて思った。改めてコーヒーカップを手に取る。
「私のメリットは何ですか?」
「メリット?」
「ええ、そちら側についた場合、私に何の得がありますか?」
「へえ……命だけじゃ満足できないってか」
「ふふ、命が惜しくて殺し屋が務まると思います?」
一口分のコーヒーが残されたカップを片手に、氷雨はニコリと微笑んだ。
「ししっ、イイ性格してんなあ。いいぜ、金も地位も今とは比べものにならねーモンをくれてやる」
「まあ……」
「なんなら、オレ様の直属の部下にしてやってもいい。どーだ?良い話だろ」
ラジエルは得意げに語る。それが報賞として価値のあるものだと当然のように言ってのけた。
ーー本当に、そういう考え方をするところは、気味が悪いほど似ている。
「王族の方って、皆さんそうなんでしょうか」
「は?何の話だ」
「いえ、独り言です。申し訳ありませんが、今のお話はなかったことにさせて下さい」
「はあ?本気で言ってんのか!?」
「ええ、あまり魅力的なお話には聞こえませんでしたから」
氷雨は、残ったコーヒーを一息に飲み干すとコーヒーカップをテーブルに置いて立ち上がった。そして、信じられないとでも言いたげな表情をしているラジエルを見据えて、静かに口を開く。
「お金だとか地位だとか……そんなものが欲しいだけなら、ボンゴレの駒になんて最初からなっていません。あなたには分からないでしょうけど」
ご馳走さまでした、と軽く頭を下げると、氷雨は荷物をまとめて席を立つ。座ったままで動かないラジエルには、それ以上目をくれることもなく、往来の雑踏の中に姿を紛れさせていった。