第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「ご用件は噂の真偽を確かめる事ですか?」
「いーや、今のは世間話さ。本題は……アンタのことだ、鈴川 氷雨」
ニイッと、ラジエルの口元の笑みが深くなった。
氷雨は、静かにコーヒーカップをテーブルへ戻すと目の前の男を見据える。
「ウチのボスは、アンタの事を随分と買っていてね。どんなもんかと思って見に来た、っつーのが本題」
「そうですか。いかがでしたか?」
「しっしっし、正直判断がつかねーわ。噂以上のタヌキだって事以外は」
失礼な。
ポーカーフェイスも交渉術も、マフィアなら最低限必要な技術だろうに…と氷雨は思った。それが少し得意なくらいでタヌキだの悪女だのと判断されるのは、遺憾だ。
「だが……たしかに、このままボンゴレの泥舟に乗せておくのは惜しいな」
ラジエルは頬杖をついた。前髪の奥に隠れた瞳からの視線が、値踏みでもするかのように氷雨へと注がれている。
「まったくお話が見えませんけれど」
「トボけんなよ。わかってんだろ、アンタをスカウトしてやろうって言ってやってんだ」
「それはまた、突拍子も無いお話ですね」
本題にしてはあまりにもお粗末だと彼女は思った。思わず苦笑いが零れる。
けれど、ラジエルはそんな彼女を気にする様子もなく話を続ける。
「悪い話じゃねーだろ?どーせボンゴレは潰れる。心中でもするつもりか?ししっ」
「さあ……最強のボンゴレが易々と潰されるでしょうか」
「最強、ねェ。実際のとこ、ボンゴレ本部はもう墜ちたも同然だ」
ラジエルは、不意に身を乗り出して氷雨との距離を縮めた。身構える彼女を前に、その口元に刻む笑みはますます深くなる。
「イイコト教えてやろーか?」
「……はい?」
「ボンゴレ最強部隊で、ベルは一番の天才とか言われてんだろ?」
「ええ、そうですね」
「オレから言わせてみりゃ、アイツは出来損ないだ。アレを天才と謳うなんざ、最強部隊の程度も知れる」
ピタリと、コーヒーカップを持とうとした氷雨の手が静止する。
男の物言いは、まるで自分のほうが優れているとでも言いたげに聞こえた。いや、実際、そう主張したいのだろう。