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THE WORST NURSERY TALE

第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで


「やっすい豆は飲めたもんじゃねーな」

「お口に合わないなら頼まなければ良かったのでは?」

「しっしっ、そう言うなよ。落ち着いて話せる環境を整えてやったんだぜ?」

「頼んでいませんし…」


 たしかに、先程より少しだけ冷静に考えることは出来るようになった気はした。
 氷雨は、目の前にいる男をまじまじと見る。何度視界に入れても、気味が悪い。彼は、女の視線を当然のように受け止めながらニイッと笑みを深めた。


「オレはラジエル。大体察しはついてるだろーが、ベルフェゴールの双子の兄貴だ」

「弟さんからは死んだと伺っていますが」

「そりゃアイツの都合の良い記憶の中だけだ。現にオレ様はここに居る」


 氷雨は、改めてラジエルを凝視する。幻覚で作り出したにしてはイメージが固まりすぎているように思えるが、死んだ人間が実は生きてました、なんて更に信じがたい話だ。
 ーー本物か、幻覚か。
 彼女は考えることをやめた。どちらであっても、今後の対処は変わらない。至って冷静に、口元に笑みを浮かべて首を傾げてみせる。


「それで、お兄様が私に何のご用事ですか?」

「プリンセス・スナイパー。そう呼ばれてんな、アンタ」

「……私は、その通り名を認めた覚えはないんですが」

「通り名っつーのは、本人の意思で決まるもんじゃねーんだよ。その通り名の由来は、アンタがベルのお目付役だから、だろ?」

「界隈には、そう思っている方もいるみたいですね。お兄様もそれをお信じに?」

「ししっ、まさか。アイツはそんなもん認めるヤツじゃねぇ」

「ご理解のあるお兄様で何よりです」


 彼女は心中でホッとした。彼が本物にしろ偽物にしろ、ベルフェゴールとの関係を怪しまれているのであれば、通り名一つで単純に判断されたらどうしようかと思った。何より、彼女はその通り名が嫌いだ。
 そもそも「ベルフェゴールのお目付役」という話自体が、数ある噂話の中のひとつに過ぎない。この10年、ヴァリアーとボンゴレを行き来する役割に就いた事で、根も葉もない噂は星の数ほど立てられた。ヴァリアー幹部陣との男女関係を怪しむ噂はひと通り出尽くしたし、どれも信憑性のない噂で終わっている。お陰で最近は男を手玉に取る悪女説が有力候補にされているくらいだ。
 氷雨は、コーヒーカップに手を伸ばすと一口飲んだ。
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