第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
作戦会議室にいたスクアーロとルッスーリア、廊下ですれ違ったレヴィには外出の旨を伝えた。ベルフェゴールとフランには会えなかったが、昨日は任務で出掛けていたようだし、また出掛けているのかもしれない。
氷雨は、残念に思う気持ちと安堵を覚える気持ちを半々に感じつつ、アジトを出る。
「遅えんだよ、ねぼすけ」
いつもの黒塗りの高級車の前で、ベルフェゴールはそう言った。
氷雨は思わずパチクリと瞬きをする。屋敷の中にいないとは思っていたが、まさか此方にいるとは思ってもみなかった。困惑している彼女を他所に、ベルフェゴールは助手席のドアを開けると「乗れ」と告げて、自分は運転席へと乗り込んだ。氷雨が助手席に乗り込むと、すぐに車は発進する。
やばい、完全に勢いで乗り込んでしまった。
「ベル、あの、私これからボンゴレ本部に」
「知ってる」
氷雨は慌てて状況を説明しようと試みたが、またも予想外なことに彼は全てを知っているようである。彼女には目もくれないまま、彼はただハンドルを操作する。その様子は至って冷静に見えた。
「第三邸でいーんだろ。おまえは着くまでになんか食えば?持ってこなかったの?」
「あ、ドーナツ持ってきた……」
「……じゃ、それ食ってろ」
氷雨は運転席に座る男を見遣る。王子を自称する彼が自らハンドルを握る姿は、そう何度も見たことがない。ついでに、彼女は助手席に座る経験も少なかった。
氷雨は紙袋からドーナツを取り出すと、それに噛り付いた。砂糖の甘さが口の中に広がっていく。
「ベルに送ってもらう日が来るなんて……」
「どーいう意味だ」
「ちょっと感動してる」
「しししっ、このまま掻っ攫ってもいいんだけど?」
「待ってやめて冗談に聞こえない」
「そこでマジになんなよ、バカ」
氷雨の訴えがあまりに必死だったので、ベルフェゴールは呆れたように溜息を吐く。そのつもりだったらわざわざ口に出したりしない、とは言わないでおいた。