第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
氷雨は、自室のベッドの上で目を覚ました。数日振りの睡眠を貪った所為か時間の感覚がない。起き上がって伸びをすると、体の節々から軽い音がする。
「いま何時……」
携帯電話を手に取ろうとサイドテーブルに手を伸ばす。指先になにか当たった。視線をそちらに向けると、置いた覚えのない紙袋がそこにあった。
頭の中で疑問符を浮かべながら、紙袋を手に取って中を確かめるーーそこには、色とりどりのドーナツが詰まっていた。
氷雨は思わず、ふふっと笑みをこぼす。幸せそうな笑顔だった。そういえば、以前にもこんなことがあった気がする。
ほんわか胸の内が温かくなるのをくすぐったく感じながら、彼女は改めて携帯電話を手に取り、開く。瞬間、彼女の表情は固まった。
「嘘でしょ、まる一日経ってる……!?」
驚くべきは、そこだけではなかった。二桁にのぼる着信履歴、十数通の電子メール。どうして自分は気づかなかったのかと焦りながら、氷雨は携帯を操作する。留守電のメッセージとメールを確認するうちに、彼女の顔色はだんだんと青くなっていく。
まる一日寝て起きたら、ボンゴレの首脳会議が終わっていて、一週間後に全世界同時作戦の実行が決定していました、なんて。
氷雨は、悪い夢ならさっさと醒めてくれと本気で願った。けれども、夢が醒める様子はなく寧ろ時間が経つほどに現実味が増していく。ボンゴレ本部から3時間前に届いた最後のメールには、こう記されていた。
ーーイタリア主力戦の準備のため、早急に第三邸へ赴くように。これはボンゴレ本部からの正式な命令である。
彼女はベッドから飛び出すと、慌ただしく出立の準備を始めるのだった。