第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「……ルッスがいなかったら、私もベルと付き合う事にはならなかったかも、とは思うよ」
「そう?遅かれ早かれな気がするけど」
「うーん、たぶん私自身が恋だって自覚できなかったと思うんだよね。そしたら、バッサリ断ってるかなって」
「……一緒に氷雨ちゃんの命も散りそうね!」
あながち冗談にもならないところが恐ろしい。氷雨は苦笑する。
「10年くらい前に、ベルが私をコメータから連れ戻したときのこと覚えてる?」
「ええ、もちろん。リング争奪戦のときね」
「そこでルッスと話したときが、たぶん一番最初。恋かもしれないって自覚したのがね。あの頃は無意識だったけど」
照れ臭そうに笑いながら、氷雨はそう言った。
つられたように、ルッスーリアも表情を和らげる。
「うふふ、それじゃあ氷雨ちゃんが恋する乙女仲間になったのは、私の功績ね〜」
「まんまと仲間にされました、はい」
「今後はラブラブな惚気話を期待しているわね!」
「ぜ、善処します……」
ルッスーリアは満足そうな様子でパッと氷雨の手を離すと、今度はその背中を出口に向かって軽く押した。
「いけない、つい話し込んじゃったわ〜。さ、アナタはもう休みなさい。いいわね?」
「うん、ありがとう。あとはよろしくお願いします」
「はーい、任されたわ!」
ひらひらと手を振るルッスーリアに見送られて、氷雨は通信室を後にする。やはり疲労はかなり溜まっているのだろう。その足取りは普段よりも覚束ないように彼には見えた。