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THE WORST NURSERY TALE

第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで


 ルッスーリアはしてやったりの顔で、それを難なく躱しながら彼女の右手を取った。華奢な女の手は、自分の手よりもふた回りは小さく思える。その中指に嵌められた、銀の意匠が施され紫色の石が光るリングをまじまじと見つめて、彼はフッと優しく微笑んだ。


「でも、このリングだけは付き合う前から変わらないのね〜」

「……っ、これは……ただの武器だから」


 それまで動揺しきりだった氷雨は、リングへの指摘に思わず視線を横に逸らした。他の指摘とは違い、すんなりと言い訳が口をついて出たのは、このリングを初めて指に嵌めた時に、同じ台詞を言われたからだ。


『こんなの、ただの武器じゃん。王子厳選の質のイイ武器。要らない気ぃ回して断ってもメリットないだろ、違う?』


 そういう名目にしろと暗に言われている気がして、氷雨はその時なにも言い返せなかった。
 リングと匣兵器が最新鋭の戦闘スタイルになった際に、ヴァリアーはボンゴレⅡ世の残した至宝「虹の欠片」を加工して幹部用に精製度Aランクのリング、通称ヴァリアーリングを作成している。だが、雲のヴァリアーリングに限っては「適正者が存在しない」というXANXUSの意向を汲んで、未だ作成されていない。
 ルッスーリアに掴まれた細い指先が、僅かに強張る。
 それに気づいた彼は、掴んだ手をぎゅっと包み込むように握った。


「ベルちゃんも氷雨ちゃんも、ほんっと変なところで不器用よねぇ」

「そんなしみじみ言わなくても……」

「15年もアナタ達を見てくれば言いたくもなるわよ」


 そのうちの何年を、ルッスーリアがハラハラと見守ってきたことか。おそらく彼女が知る日は来ない。
 けれど、彼にとってはそれで良かった。延々と雲の掛からない空など存在しない。氷雨とベルフェゴールが現在の関係に落ち着くまでには、彼が知らないことも含めて様々な事情があったのだろう。それでもいいのだ。曇り空の頃を思い返して気分が沈んでも、今がたしかに晴れ間なら、それでいい。そうであってほしいと、ルッスーリアは願っている。

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