第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
真ん丸になった瞳と頬に差した朱色が、言葉よりも饒舌に彼の言葉が的を射ていることを告げる。
氷雨は、なにも言えずにパクパクと口を開閉させた。
「ウフフ、バレバレよー?そうよね!髪パサパサ、お肌も荒れ荒れな今の姿……ベルちゃんには見せたくないわよねえ」
ルッスーリアは、それはもう満足そうに笑っていた。ニヤニヤという効果音が聞こえてきそうなほどだ。
氷雨は、反論の言葉を探した。探して、探してーーーー観念するしかなかった。全部図星。だから、反論なんて出来るはずがない。
彼女は赤くなった両頬を両手で押さえながら、盛大に息を吐き出した。
「なんでルッスには分かっちゃうんだろう」
「わりと氷雨ちゃんは分かりやすいわよ?」
「なにそれ死にたい」
顔を押さえたまま蹲る氷雨を見て、ルッスーリアはあらあらと笑った。
こうしてベルフェゴールの話になると赤くなったり青くなったりコロコロと表情を変える彼女の姿を目の当たりにする度に、ルッスーリアは安堵する。二人は上手くいっているのだろうと、そう思えるからだ。
「最初はどうなるかと思ったけど……ベルちゃんと付き合い始めてから、氷雨ちゃんは変わったわ。キラキラしてる!」
「き、キラキラ?」
「恋してる〜って感じ!私としては、アナタがオシャレに気を遣うようになってくれたのも嬉しいっ」
「そうかな?その前から、それなりに気を遣ってるつもりではいたんだけど…」
「……氷雨ちゃん、私が気づいていないとでも思っているのかしら?」
ルッスーリアのサングラスの奥がキラリと光ったように、氷雨には見えた。嫌な予感しかしない。彼女は思わず身構える。
「お化粧のパターン変わったでしょう?」
「うっ」
「洋服の趣味も少し変わってきてるわよねえ?」
「それは」
「最近は胸元にリボンの付いた服が多いかしら……きっとベルちゃんにどこかで」
「待って待って待ってわかったから!観念するからそれ以上は待って!!」
氷雨は、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がるとルッスーリアの口を塞ごうと手を伸ばす。