第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「氷雨ちゃーん、生きてる〜?」
「いっそ死にたい……」
「もう!冗談でもそんなこと言わないの!」
通信室に入ったルッスーリアは、死屍累々の巣窟と化しているその場所で、真っ白に燃え尽きている氷雨へと歩み寄った。
彼女はモニターに頭突きをしているかのような格好で座っていた。デスクの角には空になった栄養剤の瓶が数本置かれている。
「あらあら、こんなに疲弊してる氷雨ちゃん見るの久しぶりねえ」
「私も久しぶりに何度か意識が飛びかけたよ……」
「で・も!無事に完成したんでしょう?しかも3日で!」
「笹川さんにやるって言ったからね……」
氷雨は、ようやく上体を起こすとゆっくりと伸びをした。
ボンゴレ首脳会議のプラットホームを確保する。ヴァリアーの通信環境にボンゴレ本部から奪取したネットワークデータを付加する形で構築する計画で始まったそれは、なんとか形になった。
「あとは、追加したネットワークのセキュリティに漏れがないか確認して……音声・画像の送受信の調整と……」
形になっただけ、でもあった。
ブツブツと呟きながら、氷雨の目はすっかり据わっている。
ルッスーリアは困ったように首を傾げると、不意に氷雨の座っている椅子を後ろに引いた。これには彼女も驚いたようでびくりと跳ねて、背後にいるルッスーリアを振り返る。
「な、なに?ルッス」
「交代よ。アナタは寝てきなさい」
「えっ、そういう訳には……」
「今の氷雨ちゃんよりは私のほうが役に立つと思うわよー?」
それについては、反論の余地もない。氷雨はぐうの音も出ずに黙り込んだ。
「私、いま手が空いてるの。だから、気にしないで!」
「ルッス……うん、ありがとう。ありがとうなんだけど……」
氷雨は、困ったように頬をかいた。まるで言葉を探しているかのように歯切れが悪く、視線を泳がせている。
ルッスーリアは、そんな彼女の姿を見ると満足そうに笑った。そして内緒話をするように声を潜めて、氷雨の耳元へ顔を寄せる。
「心配いらないわよ。ベルちゃんは別の任務中で夜まで帰ってこない予定だから」
「!?」
ルッスーリアの言葉を聞いて、氷雨は思わず耳元を押さえて身を引いた。