第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
『え、ええと……うちの間諜の話だと見間違いとは思えないと。ただ、子供の姿だったそうですが……』
「子供の姿……」
「ふむ……10年バズーカか……?」
『同様に嵐の守護者、雨の守護者についても子供の姿で確認されています。妙なのは…彼らはミルフィオーレのγと対面し、少なくとも30分以上は抗戦していたと見られます』
「ボヴィーノに伝わる10年バズーカは、持続時間が5分程度と言われていますね」
「むーー……極限に訳がわからんな」
了平は、難しい顔をして腕を組んだ。ありえない話だ。信じられないのも無理はない。
氷雨も素直にその話を受け入れることは出来ずにいた。
「クロームさんの幻覚の類でしょうか?」
「いや、そうだとすれば子供の姿にする意味がないだろう」
「確かにそうですね……」
『あの!』
途切れかけた会話を繋いだのは、黎人だった。
『信じられないのは分かります。ただ、僕の部下が適当な報告をしているとは思えません。理屈はどうあれ……過去のボンゴレX世とそのファミリーが並盛町に現れている、それだけはコメータファミリーの名をもって信じてもらえないでしょうか』
電話口からでも分かるほどに迷いのない声だった。
この声の持ち主の姉が、どうしてそれを信じないなどと言えるだろうか。氷雨は了平へと向き直った。
「笹川さん」
「……そう迷いのない言い方をされては信じないワケにはいかんな」
「それじゃあ!」
「うむ!極限によく分からんが、沢田たちは並盛町にいる!その方向で話を進めよう」
『…っありがとうございます、ボンゴレ晴の守護者』
「その呼び方は好かん!俺は笹川了平だ!」
『は、はい。……ありがとうございます、了平さん!』
「よし!」
真っ直ぐな黎人の声は、たしかに了平の胸に届いた。
二人のやりとりを見ながら、氷雨は胸に温かいものが広がっていくのを感じていた。自分は今もコメータファミリーに名を連ねることはできないけれど、この時ばかりはコメータファミリーのボスの姉の心境でしかいられなかった。