第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「はい、鈴川 氷雨です」
『姉さん?僕、黎人です。よかった、無事に繋がって』
「黎人!?」
思いがけない人物からの入電に、氷雨は思わず声をあげた。彼女の弟である鈴川 黎人は、現在日本を拠点とするコメータファミリーのボスとして行動している。こうして声を聞くのは、ボンゴレ狩りが始まった頃に一度安否確認をしたとき以来だった。
元気そうな弟の声を聞いて、彼女は表情を綻ばせる。
「あなたも元気そうでよかった。そっちは大丈夫なの?」
『うん、ミルフィオーレからの攻撃は…なくはないんだけど。今のところは皆で何とか対処できてるよ』
「そう、よかった」
コメータファミリーは、元々武闘派マフィアではない。日本という平穏な国を拠点としているからか欧米の抗争に巻き込まれる心配も薄く、戦闘力の面でいえばボンゴレファミリー傘下の中でも下から数えたほうが早いくらいだった。
しかし、それももう過去の話となりつつある。10年前に鈴川 黎人がボスに着任以降、「自衛の為にも最低限の戦力は確保すべき」とする黎人の意向に従い、戦力の拡充をはかってきた。その背後に、ヴァリアーで匣兵器研究に勤しむ姉からの支援があることは公にされていないが、ミルフィオーレに対抗できている現状から見るに、鈴川姉弟が培ってきたものは確かに形になりつつある。
『それより、今日は姉さんに伝えたいことがあって連絡したんだよ』
「伝えたいこと?」
『僕もこの目で見たわけじゃないんだけど……』
黎人は、そこで一度言葉を止めた。話していいものか。一瞬躊躇って、けれど彼は意を決して言葉を続ける。
『ボンゴレX世が並盛町に還ってきたらしい』
「ボンゴレX世、って……」
「沢田が!?それは事実なのか!?」
『うわあっ!?えっ、その声…たしかX世の守護者の……』
「笹川了平だ!それよりも、その情報は確かなのか!?」
近くに控えていた了平は、電話口から漏れ聞こえた人物の名前に思わず食い付いた。
氷雨は、慌てて通話をスピーカーにして了平へと携帯電話を向ける。電話口の向こうにいる黎人は、思わぬ人物の反応に戸惑っているようだった。