第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
鈴川 氷雨は、実質ヴァリアーの科学技術班の班長であった。また、匣兵器研究班でも同様の扱いを受けている。「実質」と枕詞が付いてしまうのは、彼女がヴァリアーの正規隊員ではなくボンゴレから派遣されている客員であることが要因だ。
「頼もう!鈴川は居るか!?」
「は、はい!……っと、笹川さん?」
二徹明けのぼんやりとした頭でコンピュータに向き合っていた最中、突如響き渡った大声に氷雨は勢いよく立ち上がって返事をした。振り返れば、そこにはボンゴレX世の守護者の一人である笹川了平の姿があった。
了平は、彼女の姿を視認するとツカツカと歩み寄ってくる。
「おまえが首脳会議の準備をしているとルッスーリアに聞いてな。差し入れだ!」
「ありがとうございます。……チョコレートですか?ちょうど甘いものが食べたいと思っていたので助かります」
差し出されたチョコレートの詰め合わせを受け取って、氷雨は微笑んだ。彼とは何度か仕事で同行しているが、いつもこういった気遣いを欠かさない。普段の仕事仲間とは違う扱いに、ほんの少しの違和感と、妙なくすぐったさを未だに覚える。
了平は、彼女が睨めっこしていたモニターを覗き込むと「うむ!」と元気に頷いた。
「極限に俺にはサッパリだ!!」
「ふふ、これは私の仕事です。お待たせしてしまって申し訳ありませんけど」
「気にすることはない。俺こそ手伝ってやれずにすまんな、昨日も寝ていないと聞いている」
「ウチも人手不足で……けど、大丈夫です。隊長から伺っている納期には間に合わせますから」
「む、鈴川、俺はそういうことを言っているわけでは……」
ピピピピッ
ピピピピッ
了平の言葉を遮るように着信音が鳴った。氷雨の携帯電話だ。
彼女は、携帯電話と了平の顔を見比べてどうしようかと迷ったが、彼が「構わん。出ろ」と言ってくれたので会釈を一度して、電話に出る。