第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「ベルセンパーイ、自業自得って言葉知ってますー?」
ブチッ。ベルフェゴールの頭の中でなにかがキレる。テディベアを思い切りブン投げると、それは未だ笑いを堪えていたスクアーロの顔面へクリーンヒットした。懐から自慢のナイフを取り出す。
「こんのバカガエル……テメーの身をもって証明してやるよ」
「ご遠慮しますー」
「そー言うなよ、死ね」
「くだらねぇ争いしてんじゃねぇ!ぶっ殺すぞォ!!」
「やってみな!!」
かくして三つ巴の戦いの火蓋は切って落とされた。
一方、通信室へと向かう氷雨の足取りは重かった。フランの幻術に助けられたとはいえ、それが火に油を注ぐ結果になることは重々承知していたからだ。
「ベルの機嫌、最悪だろうな……」
「ぬ。戻っていたのか、氷雨」
向かいから歩いてきたのは、レヴィ・ア・タンだった。氷雨は、片手を挙げてニコリと笑顔を見せる。
「うん、ただいま。レヴィ」
「ああ」
「……?」
レヴィは、氷雨とすれ違いざまに足を止めた。思わず彼女も立ち止まる。が、その後に続く言葉がない。
じいっと観察されている視線を感じながら、氷雨は首を傾げた。
「怪我はないようだな」
「あ、うん。全然、無傷です」
「そうか。その……おまえは女だからな。傷など付かないほうがいいだろう」
ではな、と言ってレヴィは再び歩き出す。
氷雨はパチクリと瞬きを繰り返しながら、その背を見送る。
「ありがとう……?」
語尾に疑問符がついてしまったのは、仕方のないことだ。
10年ほど前のとある出来事以降、氷雨はヴァリアーのボスであるXANXUSから、あまりよく思われていない。レヴィは幹部の中でも人一倍ボスに対する忠誠が厚いものだから、必然的に氷雨に対して絡んでくることが少なかった。
が、何故だか最近になって、こうして怪我の心配をしてくれることが増えていた。彼女はまだその真意を図りきれずにいる。
「私みたいなの、レヴィの好みじゃないだろうしなあ。うーーん」
そこだけは自覚している氷雨だった。
考えても答えは出ない。彼女は気分を変えるように、よし、と呟くと通信室へ向かって再び歩き出した。