第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「このデータをもとに、私は技術班でネットワークの構築に励めばいいんだよね?スクアーロ作戦隊長?」
「はあ!?」
今度は、ベルフェゴールが度肝を抜かれる番だった。
唖然としている彼を尻目に、スクアーロは自身を落ち着かせるように深く息を吐き出すと、氷雨へと向き直る。
「何日で出来る?」
「んーー……一週間」
「なら4日だ」
「徹夜じゃん……もーだから嫌だったの、この任務」
氷雨は、頭を抱えて何やら唸り始めた。
言われてみれば、この任務の話が降って湧いたときから、彼女が頭を抱える姿をベルフェゴールは見ていた。それ自体の意味など考えてもみなかったが、彼女はここまでのシナリオを予期していたというのだろうか。
「文句言ってる暇があったら手を動かせぇ!一分一秒と無駄にできる時間はねぇぞぉ!!」
「は、はい!」
氷雨は思わず敬礼すると、広間から出て行くべく踵を返す。早足で歩き出した彼女の腕を、ベルフェゴールは掴んだ。
「ちょっと待て」
「……はい……」
「おまえ、こうなるの読んでたな?通信環境の構築に4日、その後は首脳会議の調整と開催、会議のあとにその対応……いつになったら、おまえの体は空くんだろうな?」
「いつでしょうね……」
氷雨は、ベルフェゴールと視線を合わせないように俯いたままだった。
「ッざけんな!待ってられるか!!」
「わ、私だって!!」
「あぁ!?」
「私だって……一週間もらえれば、夜はベルのところに行けると思って……だけど、ベルがスクアーロを怒らせるから……」
瞳を潤ませて、しおらしく「ベルのバカ……」と呟く氷雨の姿は、"愛らしい恋人"の見本のようだ。
ベルフェゴールは、思わずゴクリと息を呑んだ。
「氷雨……」
「なーんて、ちょっとベタすぎましたかねー?」
ボン、と手品のように藍色の煙が女から立ち上ったかと思えば、ベルフェゴールが掴んでいた腕は、テディベアの腕に変わっていた。
ギギギ、と効果音がつきそうな仕草でベルフェゴールは後ろを振り返る。笑いを堪えて肩を震わせるスクアーロの背後で、こちらに目もくれずにカエル頭の可愛くない後輩は紅茶を啜っていた。