第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
二人はボンゴレ本部の建物を脱出すると、先刻車を隠した場所まで退避した。まだ追っ手がここまで迫ってくる気配はないが、時間の問題だろう。
「とにかくアジトまで戻って……っ!?」
この後の動きを確認しようと氷雨がベルフェゴールへと向き直った瞬間、肩を強く突き飛ばされて彼女は車のボディに強く背中を打ちつけた。そうして体勢を立て直す暇もなく、伸びてきた手に顎を鷲掴みにされると、歯がぶつかりそうな勢いで唇を塞がれる。
「んっ……ふ、……っ」
氷雨は懸命に身をよじったが、己を制する相手の体はビクともしない。振り上げた右手は、彼の左手に簡単につかまって車の窓ガラスへと押し付けられてしまう。
まるで獣が噛み付くようなキスだった。呼吸を支配され、歯列を抉じ開けられて、余すところなく口内を蹂躙されて犯される。
あれだけ走っても息ひとつ乱さなかった氷雨が、そのキスから解放されると肩で息をしていた。潤んだ瞳でキッと目の前の男をーーベルフェゴールを睨む。
しかし、睨まれたほうの男は悪びれる素振りすらなく、二イッと笑みを浮かべた。
「あー…やっぱいいわ、お前と殺しやるの。スッゲー興奮する」
恍惚という表現が相応しい声音で彼は言った。先程まで女の顎を鷲掴んでいた手で、今度は頬を撫ぜる。その手付きだけは壊れ物を扱うかのように優しくて、余計に気味が悪かった。
「ね、もう一回……」
まるで悪魔の甘言だ。ベルフェゴールは、甘く囁いて再び唇を重ねようとする。