第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「話は後ね。引き上げよう」
「りょーかい」
「ま……待て……っ」
二人が振り返ると、倒れた人の山の中から起き上がる者がいた。先程ベルフェゴールの怒りを買ったミルフィオーレ隊員だ。彼は満身創痍の様子だったが、意地で立ち上がるとそのリングに炎を灯し、匣兵器を開匣した。
「逃がすものか……!!」
「ちっ、雑魚が偉そーに……」
「ベル、下がって!」
ベルフェゴールがナイフを取り出すよりもほんの少しだけ、氷雨が銃を構えるほうが早かった。間髪入れずに引金をひく。
「馬鹿な!ただの鉛玉が匣兵器にかなうものか!!」
ミルフィオーレ隊員の匣兵器・嵐ハイエナは、臆することなく唸り声を上げて氷雨とベルフェゴールへと飛びかかる。
氷雨の放った銃弾は、匣兵器を正面から捉えーーー嵐ハイエナの赤い炎を貫きながら、雲が増えるように無数の弾丸と化してミルフィオーレ隊員へ降り注いだ。
「ぐあっ!!な、何故だ……雲属性の炎といえど無機物を増殖させるなど不可能……」
「バーカ。よく見ろよ、それのどこが鉛玉だって?」
「なに……これは………蜂!?」
「ベル、わざわざ敵に解説しなくても…」
「いいじゃん。こーゆーのあったほうが雰囲気出んだろ」
まあ好きにしたらいいけどね、とばかりに氷雨は肩を竦めながら、雲スズメ蜂を匣へと戻す。
銃弾の代わりに射出された匣兵器・雲スズメ蜂は、その炎の特性をもって嵐ハイエナの炎を吸収し、増殖してターゲットをハイスピードで貫く。シンプルだが、そのスピード故に一目で見抜くことは難しい。
文字通り、蜂の巣にされたミルフィオーレ隊員は再び床に倒れ込んだ。もう立ち上がる気力は残っていないだろう。
ベルフェゴールと氷雨は顔を見合わせると、足音が聞こえてくる方向とは逆側に走り出した。
倒れたミルフィオーレ隊員は、くそっと吐き捨てた。
どうしてこうなった。相手はヴァリアーといえど多勢に無勢。討ち取って名を挙げられる筈だった。あの妙なナイフの技と雲の匣兵器さえなければ…
「!?ナイフ使い、と雲の射手……まさか……くそっ、やられた」
飛んできた夏の虫が、どれほどの大物であったのか彼はようやく気がついた。
「プリンス・ザ・リッパーとプリンセス・スナイパー……奴らが……っ」