第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
ベルフェゴールは、通信を切ると廊下に着地して足を止める。
警備システムのダウン、断末魔が重なるばかりの緊急通信、陽動役としてはこの上ない成果を出した彼の前には、わらわらと何処から湧いてきたのか多数のミルフィオーレ隊員がひしめいていた。しかし、彼らの顔付きは一様に強張っている。
「チッ、早かったな。もーちょい楽しめると思ったんだけど」
意を決して向かってくる下級隊員たちを自慢のナイフであしらいながら、彼は残念そうに舌打ちをする。
そうこうしているうちに、廊下の反対側からも敵が現れた。どうやら挟み討ちの心算らしい。
「か、観念しろ!この状況では、どうやっても逃げられまい!!」
「はあ?」
「その様相、ボンゴレのヴァリアーだな。ちょこまかと馬鹿にしおって……だが、お前は逃げ回るので精一杯の様子だ。こうして囲んで仕舞えば……」
「おっめでたいアタマしてんな」
「なっ!?」
「精一杯?だれが?」
ベルフェゴールの周囲を銀のナイフが取り巻き始める。初めは数本だったそれは見る見るうちに数を増やし、頭上に向かう螺旋を描く。魔法か手品かと見紛うその光景の中で、ベルフェゴールは珍しく笑みを消していた。刺すような殺気が辺りに充満し、彼の近くにいる隊員たちはびくりと体を硬直させる。本能が、死を告げていた。
「遊んでやってたんだろーが。もういいよ、死ね」
パチン。ベルフェゴールが指を鳴らしたのと同時に、彼を取り囲んでいたナイフは前後に向かって一斉に投擲された。そして、恐ろしいほどの正確さを持って、各人の急所を刺し、抉り、切り裂いていく。
今日一番の断末魔があたりに響き渡った。
「いっちょあがり」
「ベル!」
「ん?」
死体の道を踏み越えて、氷雨はようやく彼のもとへ到着した。
ベルフェゴールは、口角を上げて笑う。
「しししっ、遅かったな。いま終わったとこだぜ」
「そうみたいだね。これなら、私来なくてもよかったかな」
「ま、いいじゃん。合流する手間省けたし」
いつも通り得意げに笑うベルフェゴールを前に、彼女は少しだけ肩の力を抜く。
しかし、然程時間も経たないうちに廊下の向こうから「こっちだ!急げ!」という声と無数の足音が聞こえてきた。