第2章 【02】魔法の鏡は誰のもの?
宵闇に隠れて、彼らの任務は始まる。
「レヴィ、マーモン、氷雨。一人も逃すんじゃねぇぞぉ」
イタリア郊外の大豪邸。密談の会場としては些か大きすぎるのでは?と氷雨は思った。金持ちマフィアの連中が考えることなど彼女には到底理解できそうもなかった。彼女は考えることをやめて、昼間の下見のときに覚えたルートで持ち場に向かう。
大豪邸と言うだけあって、広さは破格だ。部下四名を連れてきたが、それでも一人分の持ち場の範囲はかなり大きい。加えて、夜の闇は索敵という面では不便である。
「屋敷から出てくる人間がいたら随時報告と始末。手に負えないときは早めに連絡してちょうだいね」
「承知しました、氷雨様」
「ん、健闘を祈るよ」
持ち場に着く部下たちを見送って、氷雨は愛用の拳銃に手をかけた。任務に対するとき特有の緊張感はあるが、武器を手にしたところで気負いなどこれっぽっちもない。
静寂の中、息を殺していると耳に装着していた通信機に小さなノイズ音が走った。誰かから連絡がくる予兆だ。
『任務開始だぁ!』
思わず、氷雨はびくりと肩を震わせた。その原因は緊張でも恐れでもない。鼓膜が破れそうなくらい響いた、スクアーロの声のせいである。普段アジトでともに過ごしているぶん、耐性はあるつもりだが通信機を通したこの声にはいつまでも慣れないなと思った。