第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
ベルフェゴールが警備システム室に到着して待機していると、静かだった室内が俄かに騒めき始めた。
西が。東が。偵察か。敵襲か。彼らの会話は一向にまとまらない。どうやら遊撃隊は無事に仕事をこなしたようだ。
ーー雲スズメ蜂
<ヴェスパ・ディ・ヌーヴォラ>
従来の偵察型匣兵器・雲ミツ蜂を改造して生み出されたその匣兵器は、ヴァリアーの匣兵器研究班が最高傑作と讃える代物だ。
元々雲ミツ蜂は、雲属性の炎の特性・増殖の恩恵を受けて容易に数を増やすことができ、蜂の特性から自身に危険が迫ると匣使用者に位置情報を送る機能があることから、斥候として申し分ない能力を備える。
そこに、炎を察知して接近する性質と、敵を発見すると猛毒の針を突き刺す攻撃性を付加して遊撃型匣兵器・雲スズメ蜂は完成した。
匣兵器に毒を付与するのは難しい事らしい。ゆくゆくは毒の種類を増やし、殺しだけでなく捕縛や拷問にも使えるようにしたいーーと氷雨が嬉々として語るのを話半分に聞いた覚えが彼にはあった。
「Dランク以上の隊員を向かわせろ!報告のあったポイント全てにだ!!」
それは失策だな。ゲリラ戦こそ、あれは本領を発揮する。複数人での各個撃破が正解だ。
<第2ターム開始予定時刻まであと1分です>
右往左往している敵陣営を眺める最中、耳に付けた無線から抑揚のない機械音声が時間を告げる。ようやく自分の出番が来たようだ。
<カウントダウン 開始します>
<5・4・3・2・1……>
ゼロ、と機械音声が告げる前にベルフェゴールは通気口を蹴破って警備室へと降り立った。突然の侵入者に、騒ついていた室内が一瞬静まり返る。
「Ciao!」
ぐるりと辺りを見回して、ベルフェゴールは二イッと笑った。
「し、侵入者だ!捕らえ、ぐああっ!?」
先程から周りに指示を出していた隊長格らしき男は苦痛に満ちた声を上げる。その喉には、いつのまにか銀のナイフが深々と突き刺さっていた。
驚き。恐怖。困惑。様々な感情が一度に襲ってきて、誰も動き出すことが出来ない。
「ああ、ちなみに今のーー別れの挨拶のほうだぜ?」
ベルフェゴールが手首を引くと、隊長格の男の首に刺さっていたナイフがズルリと抜けて鮮血が噴き出した。白い壁に血飛沫が跳ねる。
堰を切ったように悲鳴があたりに響きわたった。
