第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「定時報告。西側、異常ありません」
「こちら警備室。西側異常なし、了解した」
ホワイトスペルのEランク隊員は、定時報告を済ませると、ふうと息を吐いた。占拠した当初からしばらくはネズミの侵入が多かったこの場所も、今ではすっかり静かなものだ。ボンゴレ狩りも順調に進んでいるようだから、敵側も余裕がなくなってきているのだろう。
「ん?」
ふと、視界に揺らめく炎が入り込んできたことに気付く。他の見張りだろうか。それにしては炎が小さいように思える。
彼は恐る恐るその炎へ近付く。敵かもしれない。リングに炎を灯し、手にした銃を強く握った。暗闇によくよく目を凝らしてみると、ようやくその正体に辿り着く。
ーー偵察用の蜜蜂型匣兵器だ。
攻撃性を孕んだ匣兵器ではないことに一瞬ホッとして、すぐに表情を引き締める。偵察機がいるという事は、ボンゴレどもが近くまで来ているのかもしれない。
彼は、急いで無線機を手に取った。
「こちら第2警備係。西側Fポイントにて、偵察型匣兵器を発見しました」
「こちら警備室。匣兵器の数は?」
「私が見つけたのは一機です。他に視認できるものは……」
周囲を見回した彼は、異変に気付く。先程見つけた匣兵器がこちらに近寄ってきたのだ。通常、偵察型匣兵器は人や炎を感知すれば身を隠すか逃げるかのどちらかの行動を起こす場合が多い。
ならば何故、この匣兵器は自分に向かってくる?
ブゥン、と不快な羽音が聞こえる。背筋を這うような悪寒を感じたときにはもう遅かった。猛スピードで距離を詰めてきた蜂の鋭い針がこめかみに突き刺さる。
「ぐぅっ……!?」
「?おい、どうした。第2警備係、応答せよ。敵襲か?ーー応答せよ!!」
地面に倒れた第2警備係の男は、前方に転がった無線機へ手を伸ばす。しかし、まるで金縛りにでもあったかのように全身が重く、なかなか無線機を掴むことが出来ない。呼吸が苦しくなってきた。目が霞む。頭にガンガンとした痛みが響く。酸素が足りない。
「あ、れは………偵察、機…では、な………」
掠れた声が途切れたのと同時に、必死に伸ばしていた腕がぼとりと地に落ちる。それきり男は動かなくなった。
残った蜂型匣兵器は、羽音を立てながら次の獲物を探して飛び去っていく。炎の気配がするほうへと。