第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
それでも、ほんの少しだけ、ホッとしてしまう。彼の過剰なほど自信家なところはいつまで経っても変わらない。
氷雨は液晶端末を取り出して現在時刻を確認すると、端末に任務の時間設定を打ち込んでいく。
「えーと……侵入に10分、データ操作に15分、脱出と敵を撒く時間を計算すると……うん、こんなもんかな」
「ん?アタマ10分も要る?」
「要らないけど。念のため、外の見張りを落として騒ぎを起こしておこうかなあって」
「あー、そう」
そこまでしなくても何とかなるじゃん、とベルフェゴールはボヤいたが、氷雨は聞かなかったことにする。
この距離なら、さすがに気付かれないだろう。氷雨は、リングに紫色の炎を灯して自身の匣兵器を開匣した。
ブゥン、と不快な音を立てて無数の紫の炎が彼女の周りに浮かび上がる。
「じゃあ、始めよっか」
「せーぜー死なないようにな」
「お互いにねー」
ーーMISSION START
液晶端末に文字列が表示され、指定のカウントダウンが始まる。
二人が地を蹴ったのは、ほぼ同時だった。闇夜と木々の間にその姿は溶けていく。
いくらミルフィオーレに占拠されたと言っても、元々ボンゴレの本部である建物だ。地の利はこちらにある。見張りにさえ見つからなければ、侵入は難くない。
氷雨は、建物から十分に距離を取って立ち止まると、自身を取り囲む無数の炎に優しく微笑みかけた。
「頼むね、可愛い最高傑作ちゃん達」
それが合図になったかのように、揺らめいていた炎達は四方八方へ飛び散っていく。ボンゴレ本部の建物へ向かって。
その後を追って、氷雨も再び建物に向かい走り出した。