第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「……知っておいたほうが後々便利かな、と思って…….」
氷雨は、小さく溜息を吐き出した。確かに役には立ったけれど、流石にこんな切羽詰まった活用をするつもりはなかった。
『くすねるにも方法は2通りある。外から盗むか、中から持ち出すかだ。どうする?』
「外は難しいだろうね。ミルフィオーレが網を用意していないとは思えないし……私の技量じゃ、それを抉じ開けるのは無理」
せめてヴァリアーの技術班が協力してくれれば可能性はあるが、生憎彼らはミルフィオーレからのサイバー攻撃への対処で手一杯だ。とてもこちらに人員を割けるとは思えない。
『よぉし、方針は決まったな。潜入なら少数のほうがいいだろう、お前達2人で行ってこい!』
「ししし、敵中突破?面白そーじゃん」
「潜入だよ!突破しないで!?」
「データベースに手ぇ付けりゃ遅かれ早かれ見つかんだろ。結局突破になるぜ」
「それはそうだけども……」
ただでさえボンゴレ本部に向かうことは、敵にとって飛んで火に入る夏の虫だ。火種との接触を避けたいと思うのは普通ではなかろうか。
任務について反対はしないにしても、彼のようにこの状況を面白いと思うことは、氷雨にはどうにも出来そうにない。彼女は一瞬、視線を落とす。そして「あっ」と思いついたように声をあげた。
「そういえば……私、ボンゴレのセキュリティ解除キー知ってるって言った事ないと思うんだけど」
氷雨は首を傾げた。無論ボンゴレ本部の人間に聞くなり、知る方法は山ほどある。しかし、先程からスクアーロもベルフェゴールも氷雨が解除キーを知っている体で話を進めている節がある。
不思議がる氷雨を前に、ベルフェゴールはぽかんとした顔をしていた。スクアーロは表情が見えないためなんとも言えないが、すぐに喋り出さないあたり同じような反応をしている気がする。
「そりゃあ、まあ……なあ?」
『「おまえ(テメー)のやりそうなことは大体わかる」』
普段は、まったく気の合わない二人の声が見事に重なった。はてさて、これは理解していてもらえて喜んだほうが良い場面だろうか。
氷雨は、すぐに言葉が出てこなかった