第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
その時だった。
ピピッ
ピピッ
ピピッ
ピピピッ
鳴らないはずの着信音が響いた。
否、よくよく聞いてみれば音が微妙に違う。甘ったるい空気になりかけていた場をぶち壊すそれに、ベルフェゴールはピクリと青筋を立てた。
彼にとってはとんだ邪魔者。しかし、彼女にとっては救世主でもある。
一瞬の隙を逃さず、男の腕から脱した氷雨はコートのポケットからもう一つの携帯端末を取り出すとすぐに通信を繋いだ。
「はい!こちら、氷雨!」
『ゔぉおおおい!!そこにベルは居るかァ!?』
「いねーよ。邪魔。切れ、氷雨」
『いるじゃねーーか!切るな!!仕事だ!!』
わざわざスピーカーにしなくとも聞こえてくる大声にベルフェゴールは不機嫌を隠さない声音で応えた。
スクアーロの声は、さらに大きくなって静かな部屋に響く。
「ホント昔から空気読めてねーな、おまえ」
『どっちがだ!テメーらがベタベタする時間はねぇんだよ状況考えろォ!!』
「す、スクアーロ。仕事ってなあに?」
未遂だ、と訴えたかったが氷雨は言葉を呑み込んだ。やぶ蛇にしかならない予感がしたからだ。
話の軌道を戻す彼女の問いに、スクアーロは「ああ」と答えて僅かに声量を落とした。
『ボンゴレ本部からの依頼だ。近々行われる予定の全世界ボンゴレ首脳会議のプラットホームをウチで確保する』
「えっ、なんでまた…」
『現在ボンゴレ本部は、予備の予備である第三邸まで避難しているらしい。そこに世界レベルの通信環境はねぇんだとよ』
「ボンゴレの手落ちじゃん」
「けど、うちだって首脳会議が出来るほどのネットワークなんて組んでないよ。近々って言ったって今から……、」
氷雨は、思わず言葉を失った。依頼の達成のために必要なことーースクアーロの意図が理解できてしまったからだ。