第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「ベルくーん!ジェラートは?」
「ジェラートより欲しいもんが出来た」
「え?また急に……」
彼の気紛れはいつものことながら氷雨はついため息を吐きそうになった。この大荷物であまり歩き回りたくないんだけどな、と思いながらキョロキョロしているベルフェゴールについていく。
ベルフェゴールはそれから10分ほど歩きまわった末に、高級そうなアクセサリーショップに入っていった。
「アクセサリー?あ、指輪欲しくなったの?」
「指輪なんていらねー」
「へえ、じゃあネックレスとか?」
「おまえちょっと黙ってろ」
彼はまだ不機嫌なようである。ベルフェゴールの声音に棘が混じり始めたことに気が付くと、氷雨は大人しく口を噤んだ。なにが気に障ったのかはわからないが、こういうときのベルフェゴールは放っておくことが一番であると彼女は今までの経験から学んでいた。
特に欲しいものがあるわけではないが、ショーケースに視線を落とす。自由になった右手が、すこし切ないような気がした。
「なにかお探しですか?」
「え、あ、すみません。今は見てるだけで」
「そうですか。シンプルなものがお好みですか?」
じっと商品を見ていたせいで氷雨は接客の店員に目を付けられてしまったらしい。今年の流行がどうで、今の売れ筋はこうで、来年の流行予想はそうで、と次々と話を聞かされてしまう。最初は困ったものの途中で暇潰しには持ってこいであることに気付き、結局氷雨は店員と談笑をしていた。
暫くすると彼女は店の奥から「氷雨、こっち来い」と呼ばれた。話相手になってくれた店員に礼を言ってから、自分を呼んだ少年のもとまで歩み寄る。
「気に入ったの、見つかった?」
「まあね。腕貸せ」
「へ?」
氷雨が了承する前にベルフェゴールは彼女の右手を引っ掴んで持ち上げた。慣れた手つきで、いつの間にか持っていたブレスレットを細い手首に付ける。
繊細なシルバーチェーンに、王冠や星のチャームがキラキラ光りながら揺れていた。モチーフこそ少々子供染みているように思えるものの、流石はブランド物である。妙な幼さを表に出すこともなく上品さを醸し出している。