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THE WORST NURSERY TALE

第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで


「ベル、くん、右手、離して」

「は?なにおまえ、そんなのも持てねーの?」

「大丈夫、両手ならいけるから」

「なにが大丈夫なのかわかんねー。貸せ」


 え?へ?と氷雨が素っ頓狂な声を上げるうちに、ベルフェゴールは彼女から買い物かごを奪い取る。右手でそれを持ち上げて「あ、重てー」と言いながらも、声の調子は至って軽かった。まったくもって必死そうではない。そのまま氷雨の腕を引っ張って、ベルフェゴールはレジに向かって歩き出す。
 すっかり軽くなった左手をゆらゆらさせながら、氷雨はまだショックを受けていた。――やっぱりベルくん、おかしい。

 そもそもベルフェゴールは唯我独尊我儘気儘な王子様を地でいく人間である。XANXUSが相手ならともかくとして、基本的に他人のことには無関心で薄情なのが彼のデフォルトと言っても過言ではない。彼自身に責がある場合は極たまに気紛れで優しくしてくれることはあるが、こんな風に自然と優しさを見せるような少年ではなかったはずだ、と氷雨は思う。

 頬が仄かに桃色に染まる。心臓の音がうるさかった。――日本でベルくんに抱き枕にされていたときと同じだ。これは何なの、と自分自身に問いかけてみるものの答えは出ない。


「なあ、おまえさ。ソレなんなの」


 氷雨の支払いで会計を済ましてビニール袋に商品を詰めている最中、ベルフェゴールは唐突にそう言った。彼の視線の先、氷雨の右手の中指には女性が付けるには些かゴツい指輪が嵌められている。――日本を発つときに、リボーンから託されたあの指輪だ。


「あ、これ?んー……大事なもの」


 氷雨は少し考えた後にフッと薄く微笑むと、優しく指輪を撫でた。
 彼女の言葉は真実である。それはコメータファミリーと自分を繋いでくれる絆であり、弟が自分をまだ姉として認めてくれている証だと氷雨には思えるようになっていた。無論彼女はヴァリアーに戻ったことを悔いてはいない。けれども、リボーンが教えてくれたことは、彼女の中で確実に“支え”となっていた。
 ベルフェゴールは不機嫌そうな様子で「あっそ」と言った。さっさとビニール袋に商品を詰めると、それを持ってスーパーから出ていってしまう。氷雨は慌てて自分の分のビニール袋を引っ掴んで後を追う。
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