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THE WORST NURSERY TALE

第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで


 最近のベルくんはおかしい。
 そして、私もおかしい。

 ヴァリアーに戻ってきてから早一週間、今では業務も均等に振り分けられるようになったことで氷雨は平穏を取り戻している。今もXANXUSへ書類の提出を終えたところで、今日の業務はこれで終了。やっとゆっくりできると思って、彼女は安堵した。


「氷雨」

「あ、ベルくん」


 氷雨が自室に向かって歩いているとベルフェゴールと鉢合わせた。彼は彼女のもとまで歩み寄ってくる。


「ちょーど良かった。いま暇?」

「うん、暇になったとこだけど」

「じゃ、ちょっと付き合えよ」

「?どこに?」

「買い物」


 買い物?氷雨は思わず首を傾げた。彼から買い物の付き添いを頼まれたのは初めてである。彼女が不思議そうな顔をしていることに気付いたベルフェゴールは、少々ムスッとした顔になると「勘違いすんなよ」と言いながら、氷雨に一枚の紙切れを押しつけた。
 氷雨は、それを受け取って見てみる。


「?……ミント、オレンジピール、バニラエッセンス」

「なんかルッスーリアに頼まれた。菓子でも作るんじゃねーの」

「あー、そうなんだ?それで手伝い?」

「手伝わねーと食わせないっつーから仕方なくな」


 そうなんだ、と言って氷雨は納得したように頷いた。ベルフェゴールがおつかいというのも余程信じられない話ではあるのだが、相手はあのルッスーリアである。舌先三寸で言いくるめた可能性は多いにあり得る。
 ベルフェゴールは痺れを切らした様子でガシガシと頭を掻くと、不意に氷雨の腕を掴んで歩き始めた。引っ張られたほうは当然慌てながらついていくしかない。


「え、ちょっ、」

「いーからとにかくついてこい」

「はーい……」


 氷雨はぱちくりと瞬きを繰り返したが、大人しくベルフェゴールについて歩いていった。相変わらず勝手だなあ、とは思いながらも、これ以上彼の機嫌を損ねれば死活問題になることを彼女はよく知っているのだ。
 出来れば妙に目立つ隊服のコートくらいは脱いでいきたかったものだが、部屋に帰って普通のコートを取ってくるような時間は彼女に与えられそうになかった。

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