第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
スクアーロは軽く舌打ちをすると、氷雨の隣にある椅子を引いてドカッと座った。片手を彼女に差し出す。
「半分、寄越せ」
「……スクアーロ……」
「元々は俺の取り分だぁ」
彼が言ったことは事実だ。彼女が多忙な理由はそこにある。本来であれば、他の幹部に回されて然るべき書類がすべて氷雨に回されている。これで忙しくならないわけがなかった。
氷雨は大人しくスクアーロに書類の半分を渡す。彼はそれを奪い取るように受け取って、中身に目を通し始めた。
「二人とも、ありがと」
氷雨はそう言ったが、その礼は明らかに不要なものだった。
ベルフェゴールもスクアーロも上手く返す言葉が見つからずに、黙々と書類に向かっている。
「早くやれよ、終わんねーだろ」
「そうだ。さっさと終わらすぞぉ」
「はーい」
やっと彼らから出てきた言葉は、彼女の礼に答えたものではなかった。それでも氷雨は嬉しそうに笑うと、先程までにらめっこを続けていた書類にまた目を通していくのだった。