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THE WORST NURSERY TALE

第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで


「だが、俺とやり合おうとしたのは生意気だ」

「……っが、ぁ!?」


 氷雨の表情が初めて驚きに染まる。彼女が背を丸めたその瞬間に、XANXUSの右足が彼女の腹部を蹴り飛ばした。緩やかに半円を描くような軌道で後方に吹っ飛ばされた彼女はそのまま開きっぱなしになっていた扉を通り過ぎ、うつ伏せの体勢で床に叩きつけられる。大理石の床は当然固い。あまりの衝撃に彼女はすぐ起き上がることができなかった。
 XANXUSは「ふん、」と満足そうに鼻で笑うと、アジトに入って自分の部屋へ向かい足早に去っていく。ハッと我に返ったレヴィとスクアーロがその背を追った。


「う゛お゛ぉおい!なにやってんだクソボスがぁあ!」

「うるせぇ。受け身を取る暇は与えた」

「取りきれてなかっただろーが!」

「それはあいつの責任だ。俺のせいじゃねぇ」


 スクアーロはまだXANXUSに文句をつけているようだったが、玄関で聞こえた会話はそこまでだった。
 XANXUS達が去っていく足音を聞きながら、漸く我に返った他の者たちは慌てて氷雨に駆け寄る。彼女はまだ腹を押さえて蹲ったまま、げほごほと嫌な咳をしていた。


「氷雨!」

「氷雨ちゃん、大丈夫!?」

「げほっ……ぅ、無理かも……」

「喋れるなら大丈夫そうだね」

「マーモン、冷た、い……ごほ、」


 ベルフェゴールは氷雨の両肩を掴んで乱雑な手つきで引きずり起こす。隣でルッスーリアが「もっと優しくしたげなさい!」と言っているが、彼はそれを無視した。
 体を起こした氷雨の目尻にはじんわりと涙が滲んでいる。ケホ、とまた小さな咳をこぼした後にベルフェゴール達の姿を視界に映すと、彼女はへらりと笑った。それは彼らがよく知っている笑顔だった。


「また……ボスに、嫌われたかな」

「あんだけ喧嘩売っといて、よくゆーよ」

「死ななくてよかったね」

「ほんと冷たいよね……」

「……っ氷雨ちゃん」

「え?わっ、」


 氷雨の呼吸が落ち着いたと思えば、横から伸びてきたルッスーリアの腕がぎゅうっと彼女の体を抱きしめた。ベルフェゴールはひくりと表情を引きつらせた。しかし、そんなことも露知らぬ様子でルッスーリアは氷雨を抱きしめる。
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